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「戦える集団」に変貌。改革が進む大宮・長澤徹監督の“徹学”とは?

2024.06.27

【特集】大宮アルディージャ、反撃開始 #5

大宮アルディージャは、昨シーズンクラブ史上初のJ3への降格を経験した。近年の大宮の実情を見ると、かつてJ1で上位にも進出した面影はもはやない。なるべくしてなったJ3降格という見方もできるだろう。

しかし、J3に降格したことで大宮がここまでやってきたことをすべて否定してしまうのはどうだろうか。大宮が進んで来た道を振り返ると、間違いはあったかもしれないが、大きな財産を築いてきたことも忘れてはいけない。その財産がなければ、鬼門と呼ばれるJ3初年度で、開幕から1位を独走することはなかっただろう。

今季のチームはアカデミー上がりの選手と大卒の選手がいきいきと活躍している。そうなるためには当然ながらクラブが地道に継続してきた戦略があったからだ。本特集では今の大宮のJ3での結果が決して取ってつけたものでもなければ、偶然でもないということを、クラブ関係者に話を聞くことで掘り下げていきたい。

近年クラブを継続取材している須賀大輔記者に、長澤徹監督が進める改革についてレポートしてもらおう。試合だけでなく、練習から感じるチームの雰囲気や選手たちの変化。決して今の大宮は勢いだけで勝っているわけではない。長澤監督の“徹学”に迫る。

「やっと」の三文字に込められた思い

 シーズンの折り返しが見えてきた6月の頭ごろ、ベテランの富山貴光が発した一言が、大宮アルディージャの変化を実感させてくれた。

 「やっと、やることをやっているな。やっと戦える集団になってきたなと。やっとですね」

 昨季までの3シーズン。言い換えれば、大宮がクラブ史上最も苦しみどん底を見た3年間。その期間にキャプテンを務めた男が繰り返し口にした「やっと」の三文字に、J3からリスタートを図ったこの約半年の積み重ねが集約されていた。

 改革の先頭に立っているのは、長澤徹監督だ。ファン・サポーターに初めての挨拶の場となった新体制発表会で飾り気も混じり気もない真っすぐな言葉で熱い思いを届け、「今季の大宮は限界まで戦うことを約束します」と誓った新指揮官は、その言葉に嘘偽りない姿勢を示していく。

 始動日初日から選手一人ひとりと向き合い、個別で話す時間を作り、それぞれのキャラクターやパーソナリティ、今季に懸ける思いやオレンジとネイビーのユニフォームを着て戦う決意をした理由を聞き、把握することに努めた。

 そして、「目の前で昨季の悔しさを見た人間たちだから。今季も苦しい時は来るだろうけど、大宮の一番悔しい時を目の前で見たやつらこそ、アイツならそういう時に旗を上げられる」と石川俊輝をキャプテンに任命。中野誠也、小島幹敏、市原吏音を副キャプテンに据え、「ゴタゴタがあればこっちで引き受けるし、決して『みんなをまとめて』という形では渡していない。『グラウンドでShow The Flagしてくれればいい』と思っている」と大宮歴がそれぞれに長い4人にリスタートのシーズンの先導役を任せた。

 その一方で、ピッチ上では年齢や実績に関係なく全員をフラットに扱い、厳しいトレーニングを課した。何か目新しいことや特別なことをやっているわけでなく、球際、切り替え、運動量といったサッカーの大原則を呼び覚ませるようなものが多く、その上でゴールを決め切る。ゴールを守り切る。この勝敗に直結する2つのことをとにかく徹底した。

 ペナルティエリア幅を使って行う3vs3は定番メニューの1つで、攻撃側には「1vs1を3つ作るのではなく、3人で崩してゴールを決め切る」ことを求め、守備側には「この世界はディテールが勝負を決める。称賛を浴びるのは点を取った人だけど、僕らの世界では逆。勝負を決めるプレーは意外と反対にある」と体を張ることを強く要求し、簡単にPKを与えないためにスライディングは原則禁止と、クリーンにゴールを守り切る意識を植えつけていった。

初黒星で「これでリーグが始まるな」

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Profile

須賀 大輔

1991年生まれ、埼玉県出身。学生時代にサッカー専門新聞『ELGOLAZO』でアルバイトとして経験を積み、2016年からフリーライターとして活動。『ELGOLAZO』では柏レイソルと横浜FCの担当記者を経て、現在はFC東京と大宮アルディージャの担当記者を務めている。その他の媒体でも、執筆・編集業を行っている。@readysuga1214