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人数比、ダイアゴナル、犠牲的なラン…シャビ・アロンソが無敗レバークーゼンに伝授した「意図のある走りとパス」

2024.01.27

23-24欧州各国リーグ:ダークホースの注目監督
第6回 レバークーゼン×シャビ・アロンソ

レバークーゼンがバイエルン、ジローナはレアル・マドリーと冬の王者を争い、アストンビラとフィオレンティーナもCL出場圏内に食い込むなど、例年以上の波乱が起きている欧州各国リーグの2023-24シーズン。シャビ・アロンソ、ミチェル、ウナイ・エメリ、ビンチェンツォ・イタリアーノら、後半戦でも要注目のダークホースを率いる監督たちの戦術と哲学、そしてチームと生み出す相乗効果に迫る。

第6回で取り上げるのは、15勝3分・50得点14失点のブンデスリーガ首位、そして開幕から公式戦27試合無敗と大躍進中のレバークーゼン。42歳のスペイン人指揮官が就任して1年強、著しい進化を遂げた今季の彼らは、いかにもシャビ・アロンソのチームである。

 昨季ブンデスリーガで就任時、降格圏内の17位に低迷していたレバークーゼンを6位まで押し上げ、EL出場権獲得に導いたシャビ・アロンソ監督。その10月からの26試合に限れば4位の勝ち点を挙げており、今季クラブはCL圏内入りという現実的な目標を掲げていた。しかし元スペイン代表MFの下で古豪は開幕から期待以上のパフォーマンスを見せ、ここまでリーグ戦18試合(15勝3分)、さらにはDFBポカール、ELを含む公式戦27試合(24勝3分)で無敗と快進撃を続けている。

 この成績と同等かそれ以上に驚くべきは、彼らが披露するサッカーの内容だろう。「昨季はポゼッションチームではなかった。私たちはカウンターに力を入れていて、今季とはまったく違うチームだった」とアロンソ本人が振り返る通り、シーズン途中で再建を託された初年度は抱える選手の特徴とパフォーマンスの安定を優先していた。格下相手にも試合展開によってはやや低い位置でのプレッシングからの速攻で得点と勝ち点を稼いでいく堅実な戦い方を選ぶこともあり、必ずしも42歳の青年監督が志向するスタイルをはっきりとピッチの上で表現できたわけではなかった。

 そのレバークーゼンが夏の移籍市場と初のプレシーズン合宿を挟んだ今季は変貌。「すぐに私たちのプレーにインパクトを与えられることはわかっていた」というDFグリマルド、MFジャカ、MFホフマン、FWボニフェイスらを新たに加えた、アロンソ体制2年目のサッカーを紐解いてみよう。

「重要なのは数を数えることだ」

 「私たちは[3-2-2-3]とか[3-2-4-1]というような話はあまりしない。私たちが話すのは、試合で何が起こり得るかと考えること、あるいはどこで優位を得るべきかについてだ。そしてその後、選手の質による優位を得られるように努めるんだ」

 “モダンなフットボール”を目指すスタイルとして着任時に掲げたアロンソのサッカーは、状況に応じて、ボール、味方、相手を基準に選手が立ち位置を変えて試合の中での優位を探る。したがって、当人が言うように数字の並びでチームの配置を示すような古典的な分析は彼のチームには合わない。例えばビルドアップの形も、3バックと2人の守備的MFによる[3-2]が基本だが、相手の位置やボールへのプレッシャーに応じて、右CBのコスヌがボールよりも高い位置を取って非対称の[2-3]、あるいは左ウイングバックのグリマルドが降りてきて[4-2]になるなど柔軟に形が変わるため、そのような表現があまり意味を持たないのである。

 「重要なのは数を数えることだ。味方の何人がボールの前または後ろにいるのか。特定の相手に対して何人の選手をボールの前後に置きたいのか。監督としてそれについて多く考えている」

 アロンソがこう語るように、ボールと相手を基準にその前後の自チームの選手の人数比を変えてゲームをコントロールする。前後だけではなく、左右の水平方向の人数比にも気を配る。守備的MFとして中盤中央でプレーしていた彼は、現役時代から左右の人数比を把握しながら数的優位を探していたという。……

Profile

cologne_note

ドイツ在住。日本の大学を卒業後に渡独。ケルン体育大学でスポーツ科学を学び、大学院ではゲーム分析を専攻。ケルン市内のクラブでこれまでU-10 からU-14 の年代を指導者として担当。ドイツサッカー連盟指導者B 級ライセンス保有。Twitter アカウント:@cologne_note