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日本代表にJリーグベストイレブン。毎熊晟矢がセレッソ大阪で描き続けるのびやかな成長曲線

2023.12.25

Jリーグ新時代に求められるもの――2023シーズン注目クラブ総括
Vol.9 セレッソ大阪

30周年を迎えたJリーグ、J1・J2注目クラブの2023シーズンを徹底総括。有望株や実力者の海外流出、人材流動の加速で変化する序列と台頭する新戦力、そしてACLの秋春制移行――環境が激変する新時代を生き残るための戦術&人心掌握術とは? 最終結果だけでは見えてこないチーム作りの方向性と試行錯誤、そして選手自身の成長と物語を専門家と番記者の視点で掘り下げる。

第9回では、大きな飛躍を遂げたセレッソ大阪の毎熊晟矢に注目。右サイドバックの定位置を松田陸から奪取すると、安定したパフォーマンスが評価され、9月には日本代表にもデビュー。さらにJリーグベストイレブンにも選出されるなど、その名を一気に知られる存在へと駆け上がった。V・ファーレン長崎から加入して遂げた2年間の成長を、その一部始終を近くで見つめ続けてきた小田尚史が振り返る。

「少し寝ぼけていた部分もあったので、ビックリして目が覚めました(笑)」

 その知らせを聞いたのは、起床直後だった。

 「起きて少し経って、クラブのスタッフから電話がありました。少し寝ぼけていた部分もあったので、ビックリして目が覚めました(笑)」

 これまで世代別代表の経験がなかった毎熊晟矢。初の日本代表招集に、本人は驚き、クラブは沸いた。初キャップとなったトルコ戦でアシストを決めるなど鮮烈な代表デビューを果たすと、その後も継続して選出され、SAMURAI BLUEに定着したことは、23年のセレッソ大阪を振り返る上で大きなトピックとなった。

 もっとも、コーチ時代も含め、これまでも数々、日本代表に到達した選手を間近で見てきた小菊昭雄監督は、毎熊が持つ資質に関しても、それに準ずる力を持っていることは早くから公言し、毎熊本人にも「近い将来、代表に入らないといけない。入るべき選手」ということを伝えていた。ただし、それには一つ、条件があった。それは、C大阪の不動の右サイドバック、松田陸を超えること。そしてその壁は、決して低いハードルではなかった。

10月に開催された日本対チュニジアの試合後に、毎熊とピッチを回る南野拓実。この加入2年目のモナコで真価を発揮しているC大阪出身者も、長年クラブで強化担当やコーチを務めた小菊監督の教え子の1人だ(Photo: Getty Images)

 16年にC大阪へ加入した松田は、この年、J1昇格プレーオフの2試合を含むJ2リーグ戦全試合に出場。舞台をJ1に移した17年も、リーグ戦31試合に出場。ルヴァンカップと天皇杯の2冠獲得にも貢献するなど、定位置をガッチリ確保した。後方からサポートして追い越す攻撃、タッチライン際で体を張って相手の進入を食い止める守備、クロスの精度も年々上がり、ピッチ内外での闘志も十分。まさに替えが利かない存在として、桜の右サイドに君臨した。

 19年のロティーナ監督との出会いも彼にとっては大きく、攻撃参加だけではない、ゲームメイクの部分でも進歩。ボール保持の際のポジショニング、という新たな武器も身に付けた。毎熊がC大阪に加入した昨年、22シーズンも、松田は出場停止の1試合を除くJ1リーグ戦全試合に出場。まだまだ脂が乗ったプレーを見せていた。

覚醒前夜。サイドハーフで手にした大きな経験値

 J2のV・ファーレン長崎から加入1年目の昨シーズン、毎熊は開幕前に体調不良で出遅れた事情もあったが、序盤はカップ戦が主となり、リーグ戦の出番機会は試合終盤の僅かな時間に限られた。ただし、「自分は出られなくても投げやりになるタイプではない。反骨心を持ってやれるタイプ」と自己分析するように、黙々とやるべきことに邁進。また、「J1で出るために足りないことがあることも分かっていた。監督からも『やり続けろ』と言っていただいたので、いつ試合に出てもいいようにコンディションを保ちながら、全体練習にプラスアルファ、フィジカルコーチにお願いして体を動かしたり、練習から100%で毎日を過ごしていた」

 加入から約3ヶ月半後、念願のJ1初先発は、第11節のサガン鳥栖戦。ポジションは、SBではなく、1列上がった右サイドハーフだった。もっとも、この試合に関しては、「守備に追われる時間が長くなり、攻撃に行く時の体力がなかった。攻撃面で自分の特長があまり出せなかった」とほろ苦さも味わったが、続く第12節のジュビロ磐田戦で、J1初ゴールを含む2得点の活躍で勝利に貢献。守備での強さも発揮し、一気にこのポジションを自分のモノにした。この年の5月はリーグ戦全試合に出場し、3得点2アシスト。明治安田生命J1リーグKONAMI月間MVPも受賞した。

 プロ入りした長崎でFWから右SBにコンバートされ、その才能が開花。C大阪でも、同ポジションでレギュラーを掴む気持ちで加入した。ただし、今シーズンの終わりに自身も証言したように、昨年、サイドハーフで試合に出続けた経験が、今年、再びサイドバックでプレーする上で、プラスに働いたことは間違いない。当時の言葉を今、改めて振り返ると興味深い。……

Profile

小田 尚史

2009シーズンより、サッカー専門紙『EL GOLAZO』にてセレッソ大阪と徳島ヴォルティスを担当。2014シーズンより、セレッソ大阪専属となる。現在は、セレッソ大阪のオフィシャルライターとしてMDPなどでも執筆中。