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金沢で主軸となった19歳、梶浦勇輝。乾貴士らとの対峙にもがき、苦しんだ末に掴んだ成長

2023.10.21

レンタル選手の現在地2023 #2
梶浦勇輝(FC東京→ツエーゲン金沢)

バル・フットボリスタでも取り上げた「ポストユース問題」。J1でプロ契約した高卒選手がその後どのように試合経験を重ねていくかは、日本サッカーの発展を考える上で大きな課題だ。J2やJ3への期限付き移籍はそれを解決する1つの手段だが、修行先でも厳しい戦いが待っている。試練を乗り越えて活躍する若手選手たちの「現在地」を徹底レポート。第2回は、FC東京からツエーゲン金沢にレンタルされている梶浦勇輝を取り上げる。

 梶浦勇輝のプロ2年目、金沢での旅路が終わろうとしている。

 来年はFC東京に戻るのか、再び武者修行に出るのかはわからないが、どちらにせよ、金沢で2年目を過ごす可能性は限りなくゼロに近い。奇跡の残留があれば別だが、J3はこの若者にとってふさわしい舞台ではないからだ。それでもこの期限付き移籍は梶浦自身にとっても金沢というクラブにとっても貴重な経験となった。

シーズンを通じて活躍すべく、いざ金沢へ

 中学時代からFC東京のアカデミーで育ち、高校卒業後そのままトップ昇格した梶浦。ルーキーイヤーからリーグ戦で2度の先発はあったものの、出場時間はわずか144分。ルヴァンカップと合わせても283分だっただけに、2年目のシーズンは試合経験を積む道を選んだ。

 「J1でも1試合だけならやれるという感覚はあった。でも、それをシーズン通して何試合もやっていかなければいけないとなると難しい。レベルの高いチームが相手だと差も感じた。金沢のサッカーは全員攻撃、全員守備でハードワークをする。東京も運動量だったり球際だったりがあったうえでのポゼッションスタイルなので、そういった意味では(自分を)鍛えられると思った。フィジカルもそうだけど、スピード感などは練習だけでは補えない。試合に出続けなければ成長しない部分だと思う」

 自身の成長を考え、柳下監督のもとで戦うことを選んだ。

 梶浦が金沢のスタイルに成長の可能性を感じたように、金沢のほうにも梶浦が戦力になると確信していた人物がいた。

 それが辻田真輝コーチ。一昨年まで長く育成年代の指導をしてきた辻田は中学年代からたびたび梶浦のプレーを目にする機会があった。ボールを奪えて人間的にもしっかりしている、その資質は柳下監督の目指すサッカーにフィットする。そう見て取った辻田は獲得リストの中から梶浦を推薦したのだった。

 とはいえ、1月2日、チームが始動する1週間ばかり前に19歳になったばかりの選手がどこまでチームの力になれるのか。懐疑的な目もあったに違いない。シーズン前に金沢を取り巻く人々のなかで梶浦の活躍に太鼓判を押すことができた人はどれくらいいただろうか。

19歳が副キャプテン就任「気遣いも言動もしっかりしている」

 しかし、この若者は日を重ねるごとに数々のサプライズをもたらし、自らの力で周囲を納得させていった。

 チームが始動して20日あまり。いきなりのサプライズが届けられる。それは梶浦が3人の副キャプテンのひとり、柳下正明監督が言うところの「大卒1〜2年目も含めた若手のリーダー」に抜擢されたという報せだった。……

Profile

村田亘

編集プロダクション勤務を経て2013年にフリーに。エルゴラッソの記者、編集部勤務を経て故郷の石川県にUターン。2019年からツエーゲン金沢を中心に取材を続ける。