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横浜F・マリノスとブライトンの「ビルドアップ=疑似カウンター」

2023.06.19

Jリーグと欧州サッカーの戦術的符合#3

世界中のサッカー映像が簡単に見られるようになった現在、欧州サッカーのトレンドは瞬く間に世界中に波及するようになった。もちろん、Jリーグも例外ではない。目の前の試合に勝つために「対策」を繰り返していけば、おのずと行き着く答えは同じ。ポジショナルプレーへの対抗策としてマンツーマンハイプレスを採用するチームが増えれば、それに対するビルドアップの外し方も研究されていくことになる。今特集では「Jリーグと欧州サッカーの戦術的符合」と題して、Jクラブの戦術(の一側面)と合致する欧州クラブを探してみたい。#3は、横浜F・マリノスの「進化したビルドアップ」とブライトンの「疑似カウンター」との共通点について、選手の証言も交えつつ検証してみよう。

 J1連覇を目指す横浜F・マリノスは、さらなる進化を追い求め続けている。

 今季前半戦は17試合を終えて11勝3分3敗で勝ち点36。暫定ながら首位に立ってシーズンの折り返しを迎えた。しかし、ケヴィン・マスカット監督は「現時点で我々はまったく満足していない」と言い切る。

 「自分たちはボールを握りたいし、それによって相手にストレスを与えたい。後半戦も自分たちがやろうとしていることをもっと成長させたい。メンタルを強く保ち、今取り組んでいるサッカーを成熟させたい」

 選手たちも現状のパフォーマンスにはまったく満足しておらず、「自分たちのサッカー」を表現できたと胸を張れる試合は片手で数えられるほど少ない。「勝ちながら反省できる」ことは前向きな要素だが、一方でリーグ戦の敗れた試合はどれもしっかりと対策を講じられて持ち味を発揮しきれなかったことも確かである。

 マリノス対策として効果を発揮しているのはマンツーマンでの守備だ。北海道コンサドーレ札幌のようにオールコート・マンツーマンで挑んでくる相手に苦しむ傾向は顕著で、そうした対策をいかに上回っていくかが試されている。

新しいビルドアップ時の並びは[4-2-2-2]

 そんな中、マリノスはシーズン途中で戦い方を変えた。キャンプからトレーニングしてきたものを維持しつつ、ビルドアップに手を加え、相手のマークを逆手に取ってボールを前進させられるような仕組みを作ろうとしている。

 具体的な変化が見えたのは、Jリーグ第7節の横浜FC戦だった。最終的に5-0で勝利した横浜ダービーは前半の内容こそ振るわなかったものの、その後の戦いに向けた重要なきっかけとなる試合になった。

今季リーグ戦最多となる5ゴールを奪った横浜ダービーのハイライト動画

 変化のヒントは横浜FC戦の3日前に行われたYBCルヴァンカップのグループステージ第3節・札幌戦にあった。苦手とする相手をホームに迎えたマリノスは、前線にマルコス・ジュニオールと吉尾海夏を同時起用。スタメンにCFタイプの選手を含めずに戦い、マスカット監督は試合後の記者会見でマルコスと吉尾の役割を「ゼロトップ」と表現した。

 すると横浜FC戦以降のリーグ戦ではアンデルソン・ロペスと西村拓真が縦関係でなく、横並びになるようなポジションを取るようになる。明確に「ゼロトップ」とまでは言い切れないが、マリノスが基本システムとしてきた[4-2-3-1]における1トップ+トップ下の役割は明らかに変わった。

 ビルドアップの際、ロペスは相手の中盤とDFラインの間まで下がって味方からの縦パスを引き出そうとする。左利きのストライカーは主に右サイド寄りに顔を出し、トップ下の西村はやや左寄りで同じような動きをする。

 そして、ウイングのヤン・マテウスやエウベルはロペス&西村よりも高い位置でタッチラインに張りつくようなポジションを取る。ビルドアップ時の並びは中盤に四角形ができるような[4-2-2-2]と表現すればいいだろう。

 この形で攻撃を組み立てていくメリットはいくつかある。まず両ウイングが高い位置を取ることによって相手のDFラインを上げづらくし、中盤との間にスペースを作り出すことができる。

 西村やロペスはそれによってできたスペースで動き回り、CBやSBからの縦パスを引き出そうとする。例えばCBの畠中槙之輔からロペスへ縦パスを通し、右サイドのヤン・マテウスまで展開して一気にスピードを上げるのは現在のマリノスにおける定石の1つになっている。……

Profile

舩木 渉

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。