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ヴィッセル神戸とリバプールの「インテンシティ&外回り攻撃」

2023.06.14

Jリーグと欧州サッカーの戦術的符合#1

世界中のサッカー映像が簡単に見られるようになった現在、欧州サッカーのトレンドは瞬く間に世界中に波及するようになった。もちろん、Jリーグも例外ではない。目の前の試合に勝つために「対策」を繰り返していけば、おのずと行き着く答えは同じ。ポジショナルプレーへの対抗策としてマンツーマンハイプレスを採用するチームが増えれば、それに対するビルドアップの外し方も研究されていくことになる。今特集では「Jリーグと欧州サッカーの戦術的符合」と題して、Jクラブの戦術(の一側面)と合致する欧州クラブを探してみたい。#1はJリーグで首位を走るヴィッセル神戸とリバプールの共通点について考えてみた。

「バルセロナ化」から「リバプール化」へ

 2018年にアンドレス・イニエスタを獲得、「バルセロナ化」を進めてきたヴィッセル神戸はすっかり様変わりしている。残留争いに巻き込まれた昨季を経て、今季首位をゆく神戸のプレースタイルはバルサというより「リバプール」になった。

 ユルゲン・クロップ監督率いるリバプールのスタイルは「ストーミング」と呼ばれ、バルセロナとは対極にあるとされている。バルサがボール保持とハイプレスの循環であるのに対して、リバプールは縦に速い攻め込みとハイプレスの組み合わせ。現在はどちらも全方位型にシフトしつつあるが、ベースの考え方がまったく違っていた。

 リバプールのスタイルはボール保持を重視しない。ボールは敵陣に送ることが先決で、たとえ相手ボールになったとしてもハイプレスで奪い返してしまえば良い。そのスピーディーな攻め込みとシームレスなプレッシング、波状攻撃の激しさから「嵐」と呼ばれたわけだ。極端に言えばボールは敵陣にありさえすれば良い。敵陣でなるべく攻守を完結させるという考え方はバルサと同じなのだが、テンポを落として確実にボールを運ぶバルサとはアプローチが真逆なのだ。

ユルゲン・クロップ率いるリバプールで一時代を築いたサディオ・マネ(左)、ロベルト・フィルミーノ(中央)、モハメド・サラ―(右)からなるフロントスリー

 バルサ型は相手に引かれてしまうので、そこをどう崩すかが焦点になる。一方、リバプール方式ではそこは深く考えない。敵陣でボールを奪ってしまえば、攻撃に出ようとしていた相手の守備はすでに半壊しているので崩す手間は省けるからだ。つまりポイントは質より量。ハーフチャンスでも良いのでゴール前にボールを入れ、テンポを上げて相手を追い込んでいく。リバプールは徐々に変化してオールマイティに近づきストーミング色は相対的に薄れているが、出発点は縦に速い攻め込み、プレッシング、質より量を重視というスタイルだった。

 今季の神戸は初期のリバプールに似ている。バルセロナからリバプールへの変化はかなり極端だが、それで上手くいっているのだから選手の質がもともとこちらに向いていたということだろうか。……

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。