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30歳、永井謙佑はまだまだ進化する。戦術的役割も果たす「スピードスター2.0」

2019.10.15

日本代表FW永井謙佑

日本代表プレーヤーフォーカス#10

2022年W杯カタール大会/2023年アジアカップ中国大会に向けたアジア予選の戦いに身を投じている日本代表。チームの骨格は徐々に固まりつつあるが、その中でも選手たちの切磋琢磨は続いていく。中核を担う選手から虎視眈々とポジション奪取をうかがう選手まで。プレーヤーたちのストーリーやパフォーマンスにスポットライトを当てる。

30歳で異例の復帰を果たした理由

 スピードスター。

 永井謙佑の代名詞だ。おそらく、速さで言えば歴代の日本人サッカー選手の中でも最高レベルだろう。

 永井が世界に衝撃を与えたのは、2012年のロンドンオリンピックだ。関塚隆監督が率いるチームの戦術は「堅守速攻」だった。

 低めにブロックを設定したところから、1トップの永井が前に出てチェイシングをかける。パスを繋がれても、2回、3回と連続して追いかけ回す。そして、高い位置でボールを奪ったら、司令塔の清武弘嗣がDFラインの背後にできたスペースを狙ってパス。永井がそれを追いかけてフィニッシュに持ち込む。

 強豪国を撃破してベスト4まで勝ち上がれたのは、永井という、突出した武器を持った選手がいたからだった。逆に言えば、永井がいなければあの戦術は成立していなかっただろう。

ロンドンオリンピックのモロッコ戦でゴール後、喜びを爆発させる永井
ロンドンオリンピックのモロッコ戦でゴール後、喜びを爆発させる永井(左は齋藤学)

 五輪世代のエースだった永井は、しかし、A代表にはほとんど縁がなかった。A代表デビューを飾ったのは2010年だが、事実上のB代表だった。最後に呼ばれたのは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督時代に国内組中心で参加した2015年の東アジアカップ(現EAFF E-1サッカー選手権)だ。

 2017年、名古屋グランパスから新天地のFC東京へ。1年目は39試合2得点、2年目は35試合5得点と不本意な結果に終わっている。もうすぐ30歳。普通の選手であれば、ここから上昇カーブを描くことは考えづらい。

 だが、永井は良い意味で期待を裏切った。2019年は開幕からディエゴ・オリベイラとの2トップでゴールとアシストを量産。Jリーグで優勝争いを演じるFC東京を、文字通り牽引したのだ。そんな活躍が森保一監督の目にも留まった。

 6月、ケガ人が出たことによる追加招集という形ではあったが、4年ぶりに日本代表に復帰。カタールW杯に向けて若手を積極的に登用しているタイミングで、30歳になった、しかも代表経験が少ない選手の復帰は異例と言ってもいい。

 キリンチャレンジカップのエルサルバドル戦ではA代表初ゴールを含む、2得点。9月、10月とカタールW杯アジア2次予選を戦う日本代表メンバーにも生き残った。

日本代表の永井謙佑
A代表デビューから9年、エルサルバドル戦でうれしい初ゴールを挙げると続けざまに2点目もマークしてみせた

永井が見せたプレーの進化とは

 ゴールという目に見える結果を出したのは大きい。ただ、永井が呼ばれ続けているのは、それだけではない。

 森保監督は永井を招集した理由について、このように語っている。

 「スピードもありますけど、チームのコンセプトを伝えた上で『こういうプレーをしてほしい』と要求すれば、起点となるプレーも見せてくれている」

 10月10日のカタールW杯アジア2次予選モンゴル戦。大黒柱の大迫勇也が不在の中で迎える森保監督が、1トップに選んだのは永井だった。守りを固めてくるであろう相手に、永井がどのようなプレーをするのかは、試合の行方を占うものだった。

 結論から言えば、永井はそれほど目立っていたわけではない。そもそも、ずっとモンゴル陣内で日本がボールを持っているので、永井のスピードを生かせるような場面は少なかった。しかし、永井が戦術的に果たしていた役割は決して小さくはなかった。

 日本の選手がボールを持っている時、1トップの永井はモンゴルの2CBのちょっと前に位置する。裏への飛び出しを警戒させることで、モンゴルの狙いであるDFラインから前線までをコンパクトにする守備を間延びさせようとした。

 そうすることで、永井の後方にいる2列目の南野拓実がパスを受けられるスペースが生まれる。南野がボランチやCBからパスを引き出して、攻撃の中継地点になれたのは、永井がボールが出てこない中でも下がらずに我慢していたことが大きい。

 40分には、チーム4点目となるゴールも決めている。右サイドの伊東純也から上がってきたクロスを頭で叩き込んだ。

 「中で待ってニアで潰れるか、相手のCB間でニアの動きで相手を引きつけられるかとかを考えていた」

 実は永井はジャンプ力があってヘディングも強い。今シーズンのJリーグで永井は8ゴールを挙げているが、そのうち3ゴールがヘディングによるもの。これはリーグ全体で上から4番目の数字だ。

 178cmと大型FWというわけではないが、速いクロスに対して、相手の視野の外側からニアに入って点で合わせる形が確立されつつある。爆発的なスピードで裏に飛び出すだけでなく、クロスのターゲットマンにもなれる。永井は「スピードスター2.0」に進化したと言えるだろう。

 「年齢とは単なる数字でしかない」

 このように語ったのは、アスレティック・ビルバオのアリツ・アドゥリスだ。29歳でスペイン代表に初招集された遅咲きのストライカーは、35歳で6年ぶりに復帰すると初ゴール。スペイン代表の最年長得点記録を86年ぶりに更新した。

 アスリートの世界では、30歳を過ぎればほぼ例外なくベテラン扱いされる。35歳なれば大ベテランの域だ。ただ、アドゥリスは年齢を重ねても成長し続けられることを示した。事実、この選手が決めたゴールの半分以上は30歳を過ぎてからのものだ。

 永井にも同じ言葉が当てはまる。30歳を超えたスピードスターは、その足ほど速くはなかったかもしれないけども、着実に進化し続けている。


Photos: Getty Images

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Profile

北 健一郎

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。『ストライカーDX』編集部を経て2009年からフリーランスに。サッカー・フットサルを中心としてマルチに活動する。主な著書に『なぜボランチはムダなパスを出すのか』『サッカーはミスが9割』。これまでに執筆・構成を担当した本は40冊以上、累計部数は70万部を超える。サッカーW杯は2010年の南アフリカ大会から3大会連続取材中。2020年に新たなスポーツメディア『WHITE BOARD』を立ち上げる。

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