シャビ・エルナンデス新監督就任の舞台裏。オランダ代表は“クライフイズム”を逆輸入できるのか?
VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#28
エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。
第28回は、8月12日にKNVB(オランダサッカー協会)が電撃発表したシャビ・エルナンデス(本文内では本人の発音を尊重して「チャビ・エルナンデス」と表記)のオランダ代表新監督就任を、その約2週間後に行われた就任会見をもとにレポート。北中米W杯の32強敗退でますます復権が叫ばれる“クライフイズム”を、キャリアを通じてヨハン・クライフの弟子たちから薫陶を受けてきたバルセロナ出身の元スペイン代表MFは、48年ぶりの外国人指揮官として逆輸入できるのか?
就任会見で浴びたオランダの洗礼。チャビは本命ではなかった?
「第1候補はペップ・グアルディオラ、第2候補はアルネ・スロット、その次がチャビで、マイケル・ライツィハーも候補だった」
8月25日、チャビ・エルナンデスのオランダ代表監督就任記者会見の冒頭、KNVB(オランダサッカー協会)のナイジェル・デ・ヨングTD(テクニカルダイレクター)は新指揮官任命の経緯を詳らかに説明した。グアルディオラ、スロットとの交渉が低調に終わり、第3候補のチャビに切り替えてからの経緯をデ・ヨングはこう語った。
「チャビとはお互いの野心、戦術的な可能性、オランダのフットボールアイデンティティにどれだけ適合するか、密に話を重ねました。その交渉は3週間半から4週間ほど、彼の自宅のあるバルセロナだったり、オランダだったりしました。
素晴らしい話し合いの末、チャビとともに次のステップに進む結論に至りました。彼とはオランダ代表監督として、どのような指揮を執るか、具体的なイメージをつかむことができました。
チャビ自身が『自分はオランダサッカーの息子のようなものだ』と語ってくれました。これは非常に重要な要素です。彼はオランダのフットボール文化を心から受容してくれている人物であり、『現在の自分があるのはオランダのフットボール文化のおかげである』と何度も語ってくれました。ラ・マシアの少年時代から始まり、バルセロナでのデビュー、そして彼を指導してきたオランダ人監督たちの存在に至るまで、彼を最終的に選出するプロセスにおいて非常に大きな意味を果たしました」
この時点でチャビはオランダ文化の厳しい洗礼を受けたと取る向きがある。当事者による交渉プロセスの明け透けな説明は、“ばくろ”とルビを振ってもいいくらい。オランダ人特有のストレートな物言いにより、『チャビ・エルナンデスは本命候補ではなく、“第3の男”だった』というレッテルが貼られかねなかったのだ。新監督の母国スペインでは、デ・ヨングTDの発言を「リスペクトに欠ける」と報じられたという。結局、その冒頭説明と質疑応答は20分余りに及んだ。
「サッカーの大学」という一言に込められた敬意と経緯
ここから真打ち、チャビの出番だ。
「今日、私が感じているのは『サッカーの大学』に足を踏み入れたような気持ちです。選手として、そして指導者としてのキャリアの中で、私はオランダから多くのことを学びました。私は今の世代の選手たちのことを非常に強く信頼しています。ここには多くの才能ある選手がいます。私にとって最も重要なのは、競い合うことのできるチーム、グループ、そして1つの大きなファミリーを作ることです。戦術的には、主導権を握り、ボールを保持して試合を支配する、非常に勇敢なチームを作りたいと考えています。同時に、情熱、欲望、そして野心に満ちたチームをみなさまにお見せすることが私たちの目標です。指導者としての私にとって、これは非常に重要なことです。私たちは競い合うため、フットボールを楽しむため、そして勝つためにここにいます」
この瞬間、オランダ人記者たちは「チャビって、こんなに英語がうまいんだ」と感心していた。同時に「サッカーの大学」という一言に、オランダサッカーへの大きなリスペクトも感じていた。
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Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。
