出会いは夏、基準はACL。大南拓磨、土肥幹太、保田堅心が長崎へ来た理由
V・ファーレン長崎、西果ての野望#7
2018年に「長崎スタジアムシティプロジェクト」を立ち上げた時、遠い夢物語に過ぎなかった。それから6年でJリーグの1つのモデルケースになるような大型複合施設は完成し、チームは2度目のJ1昇格を果たした。しかし、まだ夢の途中。長崎という地方都市を舞台に、J1での躍進、そしてその先にあるACL出場を想い描く――番記者・藤原裕久が西の果ての野望を現在進行形で伝える。
第7回は、今夏に長崎へ加わった大南拓磨、土肥幹太、保田堅心の3人に迫る。欧州から帰国し「必要としてくれる場所」を選んだ大南、FC東京一筋の環境を離れさらなる成長を求めた土肥、そして「世界へ」という長崎のビジョンに自らの夢を重ねた保田。3人の加入には、それぞれ異なる背景がある。だが、その先で重なっているのが長崎の「世界へ」というビジョンだ。「BEYOND the DREAM.(夢の、その先へ。)」を掲げる長崎が、ACL基準へ近づくための新たな一歩。その夏の出会いから、長崎の次なる形が見え始めている。
一般的に、出会いと別れの季節といえば春である。だが、Jリーグが春秋制から秋春制へと移行し、選手の移籍と加入の時期が変わった今、サッカー界では、その季節はこれから夏と呼ばれることになるだろう。
今夏、いくつかの別れを経験した長崎は、その一方で新たに3人の選手をチームに迎えた。1人目は磐田、柏、川崎、OHルーベン(ベルギー)と国内外4クラブでプレーした大南拓磨。2人目は、アカデミーからFC東京一筋でプレーしてきた土肥幹太。そして、3人目は、大分で次代のエースと期待され、欧州へ旅立っていた保田堅心である。
彼らは、2年以内のACL出場を目標に「BEYOND the DREAM.(夢の、その先へ。)」を掲げる長崎が、チームの基準を引き上げるために迎えた3人である。
「必要としてくれる場所」へ。長崎が大南、土肥、保田を迎えた舞台裏
チームが百年構想リーグを戦っていた3月下旬、長崎でトップチームの強化を担当する竹村栄哉テクニカルダイレクター(TD)の姿は練習場になかった。来たるJ1リーグ開幕へ向けた補強の準備と、海外へ期限付き移籍している選手との話し合いのため、自ら欧州の数カ国を回っていたのである。補強ポジションの重点ポイントは、CBとボランチ。複数の選手に関して情報を収集する中、竹村TDが「一番、チームに合いそうだ」と感じたのが、当時ベルギーでプレーしていた大南拓磨だった。その統率力、最終ラインからのフィード、対人の強さ、走力は、百年構想リーグで長崎が感じた守備の課題を克服するのにうってつけだった。
一方、大南は迷っていた。
欧州でプレーを続けたい気持ちはある。だが、自身の状況を考えれば、日本へ戻るのも選択肢の1つである。悩みの中で考えたのは「自分にとって何が一番大事で、何を求めていくのがベストなのか」だったという。そうした中で、自身の必要性を熱心に話す竹村TDの姿勢は大南の心を動かすに十分だった。
「自分を一番必要としてくれるところへ行く」
大南は帰国し、長崎でプレーすることを決めた。

一方、土肥幹太は思わぬ獲得だった。当初、長崎は日本人CBと外国籍CBという組み合わせで獲得することも構想していたようだが、長崎にはすでに多くの外国籍選手が在籍している。彼らが力不足であれば放出するのにためらいはないが、多くは出場も期待できる選手たちである。彼らを無理に動かすことは難しく、かといって既存の外国籍選手を移籍させなければ、新たな外国籍選手の獲得も厳しい。先々、補強が必要になるポジションのためにも、この時点で強引な手は打ちたくないという事情もある。その中で急浮上したのが土肥だった。
もともと長崎と竹村TDには、若手を獲得して主力に成長させ、躍進してきた実績がある。今のチームに所属しているだけでも翁長聖、中村慶太、米田隼也、江川湧清がいる。そして、現在はAZ(オランダ)でプレーする毎熊晟矢や、ホルシュタイン・キール(ドイツ)の安部大晴、ヴィッセル神戸の鍬先祐弥、ガンバ大阪の植中朝日もそうだ。ポテンシャルが高い若手の土肥は、チームが想定していた以上のタレントである。
……
Profile
藤原 裕久
カテゴリーや年代を問わず、長崎県のサッカーを中心に取材、執筆し、各専門誌へ寄稿中。特に地元クラブのV・ファーレン長崎については、発足時から現在に至るまで全てのシーズンを知る唯一のライターとして、2012年にはJ2昇格記念誌を発行し、2015年にはクラブ創設10周年メモリアルOB戦の企画を務めた。
