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GS敗退危機→8強入りの起承転結で「黄金世代」を締めくくるベルギー。ドク、デ・ブルイネを下げて2点差を逆転したリュディ・ガルシア劇場の裏側

2026.07.31

【特集】北中米W杯注目国の敗因 #8
ベルギー代表(準々決勝敗退)

北中米W杯では数々の注目国が志半ばで大会を去った。勝敗を分けたのは、個の力か、戦術か、それともピッチ外の要因か。彼らの敗因は「世代交代」や「決定力不足」といったステレオタイプでは片づけられない。戦術の進化、過密日程、ルール変更、選手層、育成、チームマネジメント――その背景には、日本サッカーが学ぶべき課題も潜んでいる。本特集では各国の戦いを深掘りし、彼らがなぜ敗れたのかを検証する。

第8回は、「黄金世代」最後のW杯でのベルギー代表の起承転結を振り返る。ラウンド32のセネガル戦ではジェレミー・ドクとケビン・デ・ブルイネを下げる大胆采配で2点差を逆転したものの、準々決勝スペイン戦で力尽きたリュディ・ガルシア劇場の裏側に迫ってみよう。

 最後に頂点に立つのはたった1カ国。他はすべての国がどこかで散る。美しく散るのか、最後まで泥臭く抗って散るのか、その前に力を出し尽くし茫然自失のまま散るのか――。その様はどうであれ、W杯は国民やサポーター、ニュートラルなファンたちとの共感の物語だ。

 北中米W杯のベルギー代表はラウンド16でセネガル相手に0-2のビハインドから大逆転勝利を収め、国民を熱狂させ、続くアメリカ戦では世界を味方につけて4-1で圧勝。ベスト8で力尽きたが、それでもその後、世界王者になるスペイン相手に今大会唯一のゴールを決めた(2-1)。

 その道程はまさに山あり谷あり。スポーツを見ながらノンフィクションを読むような気持ちにさせてくれた。最終章は悔しさの混じる美しい涙。ベルギー代表史に残る死闘の数々は、ベルギー人にとって一生の夏の思い出になっただろう。つまり、ベルギーにとっても今大会は共感の物語になったのだ。しかし、開幕時を振り返ると、こんな筋書きは誰も思いつかなかっただろう。

 昨年12月の北中米W杯組み合わせ抽選会から振り返ってみよう。エジプト、イラン、ニュージーランドと同組のグループGに入った瞬間、「これほど楽な組み合わせはない」とほくそ笑み、決勝トーナメント表を眺めながら「準々決勝のスペイン戦が山場だ」と睨んだ。

 しかし、彼らは事前予想とは大きくかけ離れた苦難に直面しながら、準々決勝まで這い上がってきた。まずエジプト(1-1)、イラン(0-0)と開幕2試合で躓いてしまったのだ。この時、ベルギー人がどれだけパニックに陥ったのかが、全国紙『ヘット・ラーツテ・ニーウス』の記事を読むと理解できる。

 「今大会で最も弱いグループで、6ポイント中わずか2ポイント獲得。まったく我われは一体ここで何をしているんだ!?」(『ヘット・ラーツテ・ニーウス』より)

 複数の主力が不調で、MFの入れ替えについてはオランダ語紙とフランス語紙が、それぞれの地域に縁のある選手の抜擢を主張。リュディ・ガルシア監督とメディアの関係も緊張が高まった。何よりもベルギーにとって最もイージーな対戦国と目されていたニュージーランドとの最終節を目前に「勝てば続投、負ければクビ」とガルシア監督の去就が報じられるほど、彼らはビビっていた。

 だが、ベルギーは最大の火力で一方的に攻め込み、28分に10番を背負うFWレアンドロ・トロサールが待望の先制点を奪うと、その後も猛攻を仕掛けて5-1で大勝利。他会場のエジプト対イラン(1-1)や得失点によりベルギーは試合中、3位→2位→3位→2位→1位→2位→1位と何度も順位を変えたが、終わってみればポット1の底力を見せつけ首位突破を果たした。

“ロストフの奇跡”を超えた、セネガル戦の筋書きのないドラマ

 かつてベルギーは暗黒の時代を過ごしていた。その危機を救ったのがバンサン・コンパニ、エデン・アザールなどの「黄金世代」だ。彼らの飛躍とともにベルギーはFIFAランキング1位にまで上り詰め、2018年のロシアW杯では3位に輝いたばかりでなく、オランダ語圏とフランス語圏で割れていた国をサッカーの力で1つにまとめた。

 そんな黄金世代の中心メンバーが北中米大会では、GKティボー・クルトワ、DFトーマス・ムニエ、MFアクセル・ウィツェル、ケビン・デ・ブルイネ、FWロメル・ルカクと、数えるほどになっている。その中ではクルトワのみが絶対的守護神として文句なしのパフォーマンスを発揮し、他4人は大なり小なりメディア、ファンから批判を浴びていた。それでも、(私の想像も混じるが)ベルギー人は今大会の散り際に、黄金世代との記憶を共有できる思い出がほしかったはずだ。

 しかしガルシアはフランス人監督。黄金世代をリスペクトしていてもノスタルジーに浸ることはない。そんな2試合が決勝トーナメントで続いていく。

 まずは1回戦のセネガル戦。I組を3位抜けしたセネガルは、1月のアフリカネイションズカップ決勝でモロッコを下した後に優勝取り消しの処分に遭っているが、ともかく実力国であることに間違いない。その攻撃力とプレッシング戦術にベルギーは手を焼き、51分に0-2とされてしまった。「55分前後に必ず選手を交代させる」とベルギー国内で揶揄されるガルシア監督は、やはり56分に動く。それはデ・ブルイネとFWジェレミー・ドクを下げ、MFニコラス・ラスキンとFWドディ・ルケバキオを投入するというもの。

 ドクは不調とはいえ、それでもベルギーの依存度は高い。そしてデ・ブルイネは黄金世代のフィールドプレーヤーの中では、今も一番頼りになる司令塔だ。この中心選手2人をビハインドを負った後半序盤にベンチに下げるという奇策は、ベルギー人監督には絶対にできない。事実、テレビ実況のフィリップ・ヨースは「こんな交代策はあり得ません。終わりの始まりです!」と絶叫。ベルギー現地のパブリックビューイングでも、勝負を諦めた人々が家路につき始めたという。

 そんな驚きの展開で、コメディが挟まる。70分にプレーの選択をめぐって、主将ユーリ・ティーレマンスとトロサールがピッチの上で激しく罵り始めた。その瞬間、ベルギー人の脳裏には3年半前のカタールW杯初戦のカナダ戦でFWミシー・バチュアイが決勝弾を決めた際の、デ・ブルイネとDFトビー・アルデルワイレルトの口論(いわゆる“だまれ事件”)がフラッシュバックしたはずだ。さらに8分後には、今大会でシュートミスこそ多かったものの、多くのチャンス創出に関わっていた左SBマキシム・デ・カイペルも交代させてしまい、「ガルシアはいい選手から順番に選手を下げている」と国民を嘆かせていた。

 しかし、筋書きのないドラマはここから始まっていく。

……

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Profile

中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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