「夢のその先」を夢では終わらせない。ACL基準でクラブを変える長崎の“準備”
V・ファーレン長崎、西果ての野望#6
2018年に「長崎スタジアムシティプロジェクト」を立ち上げた時、遠い夢物語に過ぎなかった。それから6年でJリーグの1つのモデルケースになるような大型複合施設は完成し、チームは2度目のJ1昇格を果たした。しかし、まだ夢の途中。長崎という地方都市を舞台に、J1での躍進、そしてその先にあるACL出場を想い描く――番記者・藤原裕久が西の果ての野望を現在進行形で伝える。
第6回は、補強戦略や海外キャンプから見える長崎の「BEYOND the DREAM.(夢のその先)」について考えてみたい。新スローガンはただの理想論ではない。ACL出場を本気で目指すクラブは、強化予算、補強、トレーニング、戦術──あらゆる準備を“ACL基準”へと引き上げ始めている。夢を現実へ変えるため、長崎は何を変えようとしているのか。その現在地を追った。
『BEYOND the DREAM.』に込めたACLへの本気
毎年6月頃、日の暮れた長崎市の街中では、どこからか野太いかけ声と大鼓や鐘の音が聞こえてくる。10月に開催される長崎市の大祭『長崎くんち』の稽古の音である。
『長崎くんち』は、地元神社の神輿が社殿を出て御旅所と呼ばれる仮宮へ移り、市内49町のうち『踊り町』と呼ばれる7町が、曳物、担ぎ物と呼ばれる豪華な装飾の山車や踊りを奉納するのがメインだ。祭りの期間はわずか3日。そして各町が踊り町を務めるのは、7年に1度である。そのたった3日の本番のために、各町は人を集め、組織体制と支援の手はずを整え、大人と子供の区別もなく町全体で準備を進める。本番の3日が終わると、打ち上げの席では「7年後はこうしよう」といった話が繰り返され、その瞬間から、また7年後への準備が始まるのだ。
シーズンへ挑むクラブ、チームの準備も同様である。1つのシーズンが終わると、いや、シーズンが終了する前から「次のシーズンはこうしよう」と構想を練り、人を集め、組織体制と支援の手はずを整え、選手、スタッフ、フロントの区別なくクラブ全体で準備を整える。その営みが終わることはない。そしてその繰り返しによってのみ、クラブは強くなり、高みへと登っていくのである。
『BEYOND the DREAM.』
長崎は「夢のその先へ」という意味のこの言葉を、26-27シーズンのスローガンに掲げた。その思いについて、7月3日の決起集会に登壇した田河毅宜社長は、居並ぶ選手の前でこう宣言している。

「我々は本気で『ACL出場権』、『優勝』を目標に2026-27シーズンをスタートしていきます。サッカーには夢があり、様々な形で夢を実現する力があると思っています。昨年まで、J1昇格が1つの夢でした。その夢を叶え、これから闘うのはそのJ1の舞台です。この先は、ACL、アジアの舞台で闘うことができるチームになりたい。これは夢であり、具体的に乗り越えて達成していかなければならない目標だと思っています」
百年構想リーグで「ACL出場」を目標に掲げながら、WESTで9位、リーグ全体でも17位に終わったチームとしては、かなり強気な発言である。だが田河社長は「百年構想リーグは収穫、財産があったリーグでした。J1は厳しく、難しく、タフなリーグだと痛感しました」と率直に苦戦を認めた上で、「夢の向こう側にある景色をつかみ取っていこうという思いを込めました」と、あくまでチャレンジする姿勢を打ち出した。
その思いは高木琢也監督も同様だ。
「本当に久しぶりのJ1リーグですが、単に残留だとか、もう少し上の順位というレベルではなく、大きなものを得ないと飛躍にはならない。クラブとして目指しているACL出場、そしてACLでの優勝を基準にした場合、守備のデータも、攻撃のデータも足りていない。全てをACL基準、それをスタンダードにしなければならないし、本当にそういうマインドを選手に植えつけていきたい」
フロントとチームのトップ2人は、本気でACL獲りを目指しているのだ。
ACL基準で進む補強とチーム改革
その姿勢は、単なる願望から出たものではない。
26-27シーズンの強化予算は、これまでJ1では中位以下だった規模から過去最大となり、J1中位レベルに達すると見られている。一方、選手は30名弱の編成として質の底上げを意識したが、契約条件や、期限付き移籍は10人までという制限のために放出が進まず、開幕後の補強も含め、最終的に35名弱で戦う見込みだ。
戦力面では、笠柳翼こそ海外移籍したものの、マテウス・ジェズス、長谷川元希、山口蛍、翁長聖ら、百年構想リーグで活躍した主力をほぼ全員残留させた。笠柳の移籍についても、もともと海外志向が強かった選手であり、ある程度は予想されていたため痛手は少ない。
補強の主テーマは、課題の解消と全体のレベルアップである。百年構想リーグで押し込まれ、最終ラインで耐えきれない場面が続いたことからCBを最重点ポジションとし、次いで中盤で球際の優位を作り前に運べるボランチ、前線でボールを収め得点を狙えるFWという方針を設定した。
最初の補強として動いたのが、ベルギーでプレーしていた大南拓磨である。
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Profile
藤原 裕久
カテゴリーや年代を問わず、長崎県のサッカーを中心に取材、執筆し、各専門誌へ寄稿中。特に地元クラブのV・ファーレン長崎については、発足時から現在に至るまで全てのシーズンを知る唯一のライターとして、2012年にはJ2昇格記念誌を発行し、2015年にはクラブ創設10周年メモリアルOB戦の企画を務めた。
