【チュニジア戦レビュー】4点差超えも望めた試合運びは「観察と成熟」ゆえ。なぜ日本は先制後もボランチを下ろし続けたのか?
北中米W杯日本戦徹底解剖#4
北中米W杯へ向けて進化を続ける森保ジャパン。その戦いを『森保JAPAN戦術レポート』(小社刊)の著者・らいかーると氏と、ボローニャやミラン、イタリア代表などで分析官兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師も務めるレナート・バルディが徹底解剖。配置、狙い、駆け引き――日本代表戦に潜む戦術の深層を、それぞれの視点から読み解く。
第4回は、4-0の大勝で決勝トーナメント進出をほぼ確実なものにしたグループステージ第2節チュニジア戦を、らいかーると氏がレビュー。日本が先制後もボランチを下ろし続けた謎とともに、4点差超えも望めた試合運びを読み解いてもらった。
観察と鈴木彩艶を起点に、田中の知性が生んだ先制点
前節を振り返ってみるとオランダ対日本は、お互いにリスクをかけずにスコアを動かせるかという様相だった。ゆえに2-2という決着は、両チームに反省を促すスコアになったのではないだろうか。ただし、痛み分けという雰囲気でもない。得点シーンを除くと全体的に静かな展開で進んだのは、どちらもリスペクトし合った結果だと考えている。
一方、同組のスウェーデン対チュニジアは騒がしい試合となった。事前のテストマッチとは異なる急造5バックを敷いたチュニジアと、アレクサンデル・イサクとビクトル・ギェケレシュという世界最高クラスの2トップに攻撃を委ねるスウェーデンの相性は、最悪であった。5-1の大勝で+4と得失点差でも首位に立ったスウェーデンと、踏んだり蹴ったりのチュニジアは対照的な立場で第2節に臨むこととなっている。
早くも後がなくなったチュニジアは、博打に出る。まさかの監督交代だ。強化試合で怒りまくっていたサブリ・ラムシ監督からエルベ・ルナール監督に指揮を託している。合流から試合までわずか4日間での突貫工事にはさすがに無理があるとはいえ、相手からすれば何をしてくるかわからない不気味さが増すばかり。そう考えれば、奇策とはいえ悪くはない手なのかもしれない。サウジアラビア代表監督時代に1勝1分1敗と対戦歴があるとはいえ、その新監督を日本のアナリストたちが短期間でどのように分析したのかは気になるところだ。
日本からすれば、新しいチームでルナール監督がどのようなプランを組んでくるかは読みにくい。こればかりは試合が始まってみないとわからないだろう。だから、キックオフと同時に日本はある作業を行わなければいけない。それが観察だ。もちろん、多くの試合でもお馴染みではあるが、チュニジア戦はより観察力が試される状況となっている。
相手を観察するためには、試合を静的な状態にする必要がある。ボールが行ったり来たりする状況では、ピッチはカオスな状態になり秩序を保つことはできないだろう。無秩序の中で相手の計画を観察することは難しい。もちろん、あえてそれを歓迎するチームやプランもあるが、その狙いがあることを知るのもまた観察の1つである。
新監督の計画を炙り出すため、久保建英が戦線離脱を強いられている日本は、左シャドーにポジションを上げた鎌田大地の代わりに、同サイドのボランチを務める田中碧を下ろしてプレーさせることで、試合のテンポを落ち着いたものにしようと企んだ。開始32秒でCBの列に下りる田中の移動は、間違いなく意図的なものに映る。アドリブだとしても、さすがに早すぎだからだ。
そのまま4バックに変化して、チュニジアを牽制する日本。3バックのままビルドアップをすることで、相手を観察する次の手もあった。この成熟を感じさせた2つのプレーによって、チュニジアのプレッシングの論理が徐々に明らかになっていく。
チュニジアの配置は[5-4-1]。マンマークを基調としているが、自分の持ち場を遠く離れてまでのそれは志向していなかった。その証拠に、田中の下りる動きに誰もついていっていない。マークが噛み合う時はハイプレッシングを行うものの、GK鈴木彩艶までプレッシャーをかけてくることもあまりなかった。なお、日本は鈴木彩艶がボールを持った時に3バック中央の板倉滉が左CBとして振る舞うことで、鈴木彩艶を右CBのように利用。左CBの伊藤洋輝と右CBの冨安健洋をSB化させていくことは、田中を落とす4バック化と目的は同じになっている。日本が最大火力を出そうとする時に攻撃の出発点を冨安と伊藤に託すことは、アイスランド戦で披露した形と変わっていない。
日本はGKアイメン・ダーメンまでCF上田綺世がボールを奪いにいっていたので、ハイプレッシングを志向していたのだろう。おそらくは、早めにボールを回収して保持し、冨安と伊藤から試合を作る機会を増やしたかったのではないだろうか。ルナール監督の計画を知った日本は、鈴木彩艶が相手を引きつけ、CBたちが攻撃の出発点になりやすい状況を生み出していった。
相手がボールを奪いに来れば、空いたCBにつなぐ。誰もボールを奪いに来なければ、前線が同数なら蹴っ飛ばすという対マンマークの鉄則を愚直に実行する鈴木彩艶。この2択をチュニジアに迫ることができるのは、そのキック技術があってこそであった。
4分に生まれた日本の先制点は、その鈴木彩艶が起点となっている。彼がロングキックの素振りを見せながら冨安にショートパスをつなぐと、そこで知性を発揮したのが田中だった。中盤でコンビを組む佐野海舟とポジションを入れ替えながら、相手のマンマークから逃れようとする中、前でフリーになっていた鎌田を見つけた田中は、冨安から鎌田へのパスコースを空けるためにスピードを緩め、次の待ち合わせ場所へ向かっていく。
なお、マンマークなのに鎌田がフリーになっていた理由は、上田と同じレーンでプレーしていたからだろう。左にいるはずの鎌田が右に流れてくることで、鎌田へ出ていきたい相手選手の前に上田がいるという縦関係を成立させられる。チュニジアは本来の位置を離れるほどのマンマークを実行してこないという観察結果を利用したようにも見えるが、日本はシャドーの選手がボールサイドに集まる策をもともと持っているので、相手の論理を利用したというよりは普段の習慣でプレーした可能性もある。
この流れで鎌田のフリックを受けた上田が、相手よりも一足早く中央に進出してきた田中にボールをつないで一気に敵陣ペナルティエリアへ。そのまま逆サイドに展開すると、左ウイングバックの中村敬斗の仕掛けからクロスを鎌田が押し込んで、日本が早くも一歩前に出る。チュニジアからすれば、青天の霹靂だったのではないだろうか。
成熟か、欲不足か。攻撃に枚数をかけないボール保持の是非
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。
