京都の“反骨の司令塔”尹星俊。「アーセナルの化け物みたいなやつ」に受けた衝撃
【特集】百年構想リーグで台頭したU-21の新星#8
昇降格というプレッシャーから解放された百年構想リーグでは、勝敗だけでなく「成長」にも大きな価値が置かれる。若手にとって“試される場”であると同時に、“伸びるための舞台”でもある。本特集では、その環境の中で自らの才能をピッチ上で証明し始めたU-21の新星たちに光を当てる。
第8回は、京都サンガF.C.で鮮烈なJ1デビューを飾った19歳のMF尹星俊。類まれな判断力と推進力を武器に、百年構想リーグで一気に存在感を高めた新鋭は、いかにして“京都の心臓”へと駆け上がったのか。その原点には、幼少期から変わらぬ負けず嫌いと、少年時代に出会ったアーセナルの逸材から受けた衝撃、そして「自分を忘れるな」という恩師の言葉があった。
「やっと来たな」――突然訪れたJ1デビューの瞬間
「明日、スタメンでいくから。自分を出してこい」
J1百年構想リーグ第3節・アビスパ福岡戦を前日に控えたピッチ脇。曺貴裁監督からそう言葉をかけられた瞬間、尹星俊に恐れや戸惑いといった感情は決してなかった。
「『やっと来たな』って思いました。失うものは何もなかったですし、やってやろうという気持ち。前日練習の前は多少の緊張感もありましたけど、それ以上に『やっと』という感じ……」
リーグ戦でのメンバー入りすら、一度も経験したことがなかった。それがいきなりの先発起用という大抜擢。周囲の人間やメディアがどれほど驚き、シンデレラストーリーとしての文脈を期待しようとも、尹自身にとっては至極平然と待ち望んだ瞬間に過ぎなかった。
迎えた試合当日、サンガスタジアムのピッチに立った尹は、「当日の方が逆に緊張しなかった」と驚くほど冷静だった。
キックオフの笛とともに、尹は京都サンガF.C.の中盤の底で堂々と躍動する。高校を卒業したばかりの十代とは思えない堂々とした立ち居振る舞いをピッチ上で見せ、前半からブロックを切り裂く縦パスや前線へ持ち運ぶ推進力を発揮した。

「自分を出し切ることを意識しました。常に自分の持ち味を出してやれば、チームにいい影響を与えられると思ったので、とにかく自分のプレーを出して、あとはチームメイトに助けてもらうつもりでやりました」
体格に勝る福岡の選手たちが激しいプレスを仕掛けてきても、尹はブレない。身長170センチの小柄な身体をいっぱいに使い、巧みなボディバランスでボールを隠す。鋭いターンから前を向くと、相手の守備網のギャップを射抜くようなパスを次々と配給した。自らボールを持ち運んで敵陣のスペースを殺す引き出しの多さは、まさに当時のチームに欠けていたラストピースだった。チームは尹のデビューを契機に勢いに乗り、続く第4節ではサンフレッチェ広島を2-1で破ってリーグ戦3連勝を飾った。
尹は「自分が出たから連勝できたとは、あまり思っていません。チームが連勝できて良かった。本当にそれだけ」と、どこまでも謙虚に語る。だが、この鮮烈なデビューが日本サッカー界に与えた衝撃は大きく、突如現れたニューカマーが、瞬く間に2月のJ1百年構想リーグ月間ヤングプレーヤー賞をさらうこととなった。
負けず嫌いが育てた、尹星俊というフットボーラー
卓越した足下のクオリティと守備への執着心の根底にあるのは、幼少期からの“負けず嫌い”。この若きフットボーラーの異質な才能はいかにして形作られたのか。物語は、彼の少年時代へとさかのぼる。
異例のスピードでJ1のレベルに適応し、輝きを放っている尹。そんな彼の生まれは大阪府東大阪市。実家からほど近い町クラブ・南港サウスマンFCでサッカーを始めると、その非凡な才能を見出されて小学3年からはヴィッセル神戸U-12に入団した。その後、小学5年の途中で同クラブを退団すると、奈良県のYF奈良テソロへと籍を移した。この目まぐるしい環境の変化は、小学生にとっては過酷。当時を回想する尹は「神戸の時は、車にしろ電車にしろ実家から片道1時間ちょっとはかかっていました。奈良に移ってからも、30分から40分くらい。子どもながらに大変やったなと」と語る。
厳しい環境に身を置きながらも、尹はただひたすらにボールを蹴り続けた。明確な将来像があったわけではない。ただ、「昔から守備でボールを取るのが得意だったし、とにかく負けず嫌い。そこは当時からあんまり変わっていない」と語る通り、目の前の勝負に絶対に負けたくないという純粋な闘争心が、彼のフットボーラーとしての骨格を形作っていった。
そんな尹に大きな転機が訪れる。
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Profile
白谷 遼
2025年度まで縄手猟名義で活動。サッカー専門媒体『エル・ゴラッソ』で東京ヴェルディを担当。これまで日本代表、Jリーグ、大学・高校サッカーなど、プロアマ問わず幅広く活動している。小学校の頃に見たパク・チソン、イ・ヨンピョの活躍に感銘を受けて韓国サッカーにハマった埼玉県民。韓国サッカーに深い造詣があり、興味の守備範囲は広い。
