「CKとスローインのW杯になる」ガリアルディが予測する北中米W杯の戦術新潮流
北中米W杯を深く味わうための論点#2
6月11日に開幕する北中米W杯をより深く味わうために、本特集では「戦術」「監督」「報道」「環境」「政治」など多角的な視点から、世界最大の祭典を掘り下げていく。第1&2回のテーマは「戦術」だ。
EURO2020制覇を支えたイタリア代表の元マッチアナリストであり、現代戦術研究の第一人者でもあるアントニオ・ガリアルディの独占インタビュー。後編では、アルゼンチン、フランス、スペイン、イングランド、日本など注目国の現在地を分析しながら、「流動性」と「柔軟性」を軸に変化する現代戦術を読み解く。「ポジショナル2.0」「リレーショナル」「トランジション」「マンツーマンプレス」「セットプレー革命」――北中米W杯で勝敗を分ける新潮流とは何か。さらに、短期決戦を勝ち抜くために代表監督に求められる条件、そして“次のW杯”を制するチーム像にも迫った。
静的構造から“流動性”へ――「ポジショナル2.0」とリレーショナルの時代
――今大会も優勝候補と目される強国の顔ぶれは変わっていません。前回の決勝を戦ったアルゼンチン、フランスに加えて、EURO2024で優勝したスペイン、さらにイングランド、ドイツ、ブラジルといったところでしょうか。
「やはりアルゼンチンとフランスが『倒すべきチーム』だと思う。フィジカル的な強度の高さとトゥへルがもたらした戦術的柔軟性を併せ持つイングランドも、優勝候補の一角に入れていいだろう。スペインは戦術的に見るとやや時代に逆行する静的でポジショナルなサッカーをしているが、ヤマル、ペドリという2人のタレントは、そこにクオリティと意外性を上乗せする存在だ。彼ら2人のパフォーマンスに左右される部分が大きいのではないかと思う」
――アンチェロッティ率いるブラジルはどう見ますか?
「アルゼンチンと同じ、リレーショナルな志向性を強く持ったチームだ。レアル・マドリーがそうだったように、セレソンでも、守備の秩序を整える一方で攻撃のタレントたちに創造的自由を与えて戦うだろう。ただし個のクオリティという点ではやや見劣りする。ただ、もしネイマールが非常にいいコンディションで参加するなら、話は少し違ってくる。彼がサッカーの歴史に名を刻みたいなら、これが最後の機会だ。
ちなみに、コンディション的に未知数だという点では、メッシやロナウドも同じだ。この2年間は強度の低いリーグでプレーしており、年齢的にも限界に近づいている。暑さの中で試合がペースダウンして、テクニカルな側面で違いが作り出せる状況があれば、彼らはまだ主役になれると思う」
――全体的な戦術的傾向としては、ポジショナルな志向性とリレーショナルな志向性という2つがあるということになるかと思います。完全に対立する概念ではないにしても、どちらに軸足を置くかで見え方はかなり違ってくる。
「リレーショナルなサッカーはまだ大きな流れにはなっていない。多くの監督はポジショナルプレーの考え方に結びついている。しかし、それもまたこのスポーツの美しいところだ。勝利をもたらすただ1つの道は存在しない。どんなアプローチにも道は開かれている。私の考えでは、構造化された静的なサッカーに対して、流動的で柔軟なサッカーが優位性を持ちやすい時代が始まっている。しかし自分たちが育ったサッカーの考え方を守る監督たちもいる」
――その文脈の中で、トゥへルのイングランドとナーゲルスマンのドイツはどこに位置づけられるでしょう。
「私は、彼らのサッカーはポジショナルプレーの進化系だと思う。構造を重視する一方で、その内部には多くの機動性、ダイナミズム、裏のスペースアタックが組み込まれている。それはリレーショナルなサッカーではなく、ポジショナルサッカー2.0だ。彼らはリレーショナルなサッカーからいくつかのことを学び取り、ポジショナルサッカーをよりダイナミックで流動的なレベルに進化させた。それと比べると、デ・ラ・フエンテのスペインはより静的で、ポジショナルプレーの原則に対して教条的だと思う」
ガリアルディが見た日本の強みと“2つのエリア”問題
――それと比べるとドイツ、イングランドはより流動的でポジションチェンジが多く、構造を崩してボールサイドにオーバーロードしたり、1人の選手が異なる機能を担ったりする側面が強いと。
「そうだと思う。この文脈の中で、私がサプライズとして期待しているのは日本だ。日本も[3-2-5]のポジショナルなサッカーを志向しているが、その中で非常に流動性があり、しかも異なる戦い方を1つの試合の中で使い分けることができる。日本の選手たちは戦術的に非常に柔軟で、しかもダイナミックだ。足下にボールを欲しがるだけでなく、スペースをアタックすることができるし、どのスペースをいつアタックするべきかを知っている。ボールを保持していいサッカーができるのはもちろん、保持しなくても戦える。
日本に弱点があるとすれば、2つのペナルティエリアで強度がやや足りないところだ。エリアからエリアまで、中間の70mでは見ていて最も美しいチームの1つだ。ただ2つのエリア内では、フィジカル面でも、時にはパーソナリティや個の絶対的なクオリティの面でも、世界のトップレベルと比べてやや見劣りがする」
――日本には、あなたも指導した鈴木彩艶がいます。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
