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ロッキ疑惑は「第2のカルチョポリ」か?審判・VAR問題の実像と“見えない本丸”

2026.05.01

CALCIOおもてうら#68

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、セリエAで浮上した審判指名責任者ジャンルカ・ロッキを巡る疑惑を手がかりに、VAR時代における判定の透明性と、イタリア特有の「疑惑をめぐる想像力」の構造を読み解く。カルチョポリの記憶がいまだ色濃く残る中で、この問題は何を意味し、何を意味しないのか。そして今、本当に問われるべき課題とは何なのか。

疑惑の発火点——「3つのケース」の検証

 イタリアサッカー界で、審判とVARをめぐる大きな疑惑が持ち上がっている。

 その発端は、準大手通信社の1つAGIが4月24日に、「セリエAの審判指名責任者ジャンルカ・ロッキ、VAR責任者アンドレア・ジェルバゾーニを含む複数の審判関係者が、ミラノ検察による『スポーツにおける詐欺罪(frode sportiva)』を容疑とする捜査の被疑者となっている」と報じたこと。2006年に起こったあの忌まわしい「カルチョポリ」を想起させる、審判絡みのスキャンダルである。

 この報道、および各メディアの続報によれば、現時点で明らかになっている問題の概要は次のようなものだ。

 容疑の対象となっているのは24-25、つまり昨シーズンの終盤に、セリエAの試合におけるVAR判断へ介入した疑惑、そして審判指名を操作したのではないかという疑惑だ。そのうちロッキが対象となっているのは、次の3つだ。

 まず、2025年3月1日のウディネーゼ対パルマにおいて、パルマのバログがペナルティエリア内でファウル(ハンド)を犯したかどうかについて、VARルーム内で進んでいた評価をめぐる疑惑。VAR審判のダニエレ・パテルナは当初、これはPK判定に値しないという判断に傾いていたが、その途中で急に後ろを振り向いた後に判断を変え、主審ファビオ・マレスカにオンフィールドレビューを求め、最終的にウディネーゼにPKが与えられた。その一部始終は、VARルーム内を撮影していたモニターカメラ映像に残っている。この時パテルナが振り向いたのは、VARルームと外部を隔てているガラスの向こう側にいたロッキが、ガラスを叩いて注意を引いたからで、これが判定への不当な介入にあたるというのが、ミラノ検察の立場だとされる。

 2つ目は、2025年4月2日、コッパ・イタリア準決勝第1レグのミラン対インテルで、ロッキが「複数の人物」と話し合いを持ち、インテルにとって「好ましくない」とされたダニエレ・ドベーリ主審を、インテルのスクデット争いにとって重要となるセリエAの試合から外すよう「共謀」したという疑惑。その結果、4月23日の同カード第2レグにドベーリがアサインされ、その時点でコッパ・イタリア決勝やセリエAのインテル戦をドベーリが担当する可能性が消された、というのが検察の主張だとされている。ただし、この「話し合い」の3日後、4月5日のパルマ対インテルではドベーリが主審を務めており、これは1つの反証となっている。

 3つ目は、2025年4月20日のボローニャ対インテルに、インテルにとって「好ましい」アンドレア・コロンボ主審をアサインしたという疑惑。これも、スクデット争いにおいてインテルが有利になるよう意図した恣意的な指名だったというのが検察の主張だ。ただしこちらも、結果は1-0でボローニャが勝っており、コロンボの判定も当時のマッチレビュー記事によれば、むしろインテルに不利なジャッジが多かったとされている。

内部告発と検察捜査――どこまでが事実なのか

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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