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スタイル分析システム『FocuSCOPE』による監督のリスト化とは?責任者・秋山祐輔が明かすJ.LEAGUE Europeのミッション(前編)

2025.12.25

世界から見たJリーグ#4

日本人選手の欧州移籍はすっかり日常となり、Jリーグ側もロンドンに拠点を置いたJ.LEAGUE Europeを設立するなど、Jリーグと欧州サッカーの距離は年々近くなっている。互いの理解が進む中で、世界→Jリーグはどう見えているのだろうか? 戦術、経営、データなど多様な側面から分析してもらおう。

第4&5回はJ.LEAGUE Europe初代プレジデント秋山祐輔氏のインタビュー。前編では、J.LEAGUE Europe設立の経緯、ユニークな活動内容=スタイル分析システム『FocuSCOPE(フォーカスコープ)』による監督のリスト化などについて詳細を明かしてもらった。

J.LEAGUE Europeとは何なのか?

――まずは「J.LEAGUE Europe」の設立経緯から教えていただけますか?

 「Jリーグ全体、クラブレベルでもそうですが、やはりこのグローバルなフットボールという産業において、サッカー的にもビジネス的にも世界の基準は欧州にあります。人や情報、ネットワークやデータなど要素はいろいろありますが、その良いところを日本に持ってきて共有し、Jリーグやクラブのレベルを上げたい。また、逆に取り入れる一方ではなく、Jリーグや日本サッカーには良いものがたくさんあるので、それを欧州へ向けて輸出したい。その双方向でタッチポイントを増やしていこう、というのが設立の背景ですね。私がロンドンへ行ったのが今年(2025年)の2月ですが、そこから実質的に稼働しています」

――秋山さんはもともとアスリートの契約や交渉、マネジメント等を行うSARCLEの代表者で、エージェント(代理人)としても長く活躍してきました。この「J.LEAGUE Europe」を誰に仕切ってもらうか、という判断の中で、Jリーグから白羽の矢が立ったのですか?

 「そうだと思います。野々村(芳和)チェアマンともいろいろなディスカッションをさせていただきましたが、自分を第三者的に表すと、すでに欧州サッカーにネットワークがあり、かつJリーグのことも理解して、クラブやJFAとコミュニケーションを取ることができる。エージェントの仕事内容としても0を1にする作業は苦手ではなかったので、そういう様々な要素を評価していただいたのだと思います」

――「欧州とのタッチポイントを増やす」とおっしゃっていたので、まさに秋山さんのような方は適任に思えます。ただ、秋山さん自身には会社や仕事もあったわけで、このJリーグへ入る決断は容易ではなかったですよね?

 「容易ではなかったです。今後の日本サッカーやJリーグの大きな流れの中で、このプロジェクト自体は素晴らしいと当初から考えていましたし、チェアマンともそう話していました。ただ、SARCLEという会社もそうですし、エージェント契約している(南野)拓実、(上田)綺世、(鈴木)唯人、(佐藤)龍之介をはじめとした70~80人くらいの選手や監督、あるいは引退した小野伸二や内田篤人も含めて、大きな大きな責任を抱えていたのは確かです。それはもう全員が息子みたいなものなので、とてつもなく迷いましたが、ほぼ全員にフェイス・トゥ・フェイスで会って理解してもらい、『秋山がそういう思いでJリーグや日本サッカーの発展のためにやるのなら良いんじゃないか』と多くの選手から声をいただき、最終的にはJリーグの大いなるチャレンジに私も乗ってみよう、という結論になりました」

「“色”を持った監督をJリーグに増やしたい」

――J.LEAGUE Europeが取り組むタスクは多岐に渡り、競技面以外にも様々あると聞いていますが、初年度はどのような点から始めたのですか?

 「わかりやすく言うと、人、モノ、ビジネス、情報のタッチポイントを作り、欧州とのトランザクション(取引)をなるべく多くしたい、というところですが、初年度はサッカーに近いところから言えば、監督に関する情報収集のサポートです。誤解を恐れずに言うと、欧州に比べてJリーグのクラブには“色”を持ったチームが少ないというのは、当時から実感がありました。スタイルはクラブが決めるべきだし、決めれば良いのですが、その“色”の積み上げはJリーグが始まって30年以上経った中で、できているクラブが多いのか少ないのか。別に欧州だから全部ができているとは思いませんが、アヤックスだったらこのサッカー、バルサならこのサッカー、ライプツィヒやザルツブルクなどレッドブル系はこのサッカー、という“色”がありますよね。サッカーは“色”の戦いだと思うんです。そのぶつかり合いがサッカーの魅力を引き出し、クラブやリーグの魅力も引き出します。日本のクラブにも良い監督はたくさんいるし、“色”を持つクラブもありますが、“色”の積み上げはもっと多くのクラブができるのではないか。そうした課題はあると思っています。

 では、どうすればそういう“色”を持った監督をJリーグに増やせるかですが、1つは監督のリスト化と情報収集など、我々が一次フィルターとしての機能を果たすことだと考えています。もちろん、本来はクラブが自前でやればいいのですが、欧州の監督を探すために何カ月や何年もJクラブから向こうへ常駐させるのは簡単ではないですし、当然ながらJ2、J3と予算感が小さくなるにつれて難しくなります。だから我々の仕事としては、外国籍監督を探したいクラブに向けて、ニーズに合わせたリストを作り続けることがあります」

――具体的にはどのように区分けで、監督をリスト化していくのでしょう?

 「その1つの方法として、私たちは東大チームの協力を得て『FocuSCOPE』というスタイル分析のシステムを作りました。イベントデータを使って、過去約10年の主要32リーグの全監督、全クラブがどの方向のサッカーを実現しているのかを参照できるシステムです。簡単に言えば、プレッシングやインテンシティが高いか低いかの縦軸と、ポゼッションが高いか低いかの横軸があり、右上のゾーンはボールを持てるしプレッシングも鋭いというサッカーです。どのリーグも上位4~5チームは、この右上ゾーンに強いチームがいます。一方でレッドブル系のように横軸(ポゼッション)がもう少し左側になるタイプもいて、監督の“色”が可視化されるようになっています。

……

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Profile

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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