歴史に名を刻むファン・ハールの「マイティ・アヤックス」、クライフ時代の[3-4-3]と何が違うのか?
新・戦術リストランテ VOL.77
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第77回は、伝説チーム分析の第三弾、ファン・ハールが作り上げた90年代のスーパーチーム「マイティ・アヤックス」。同じシステムを採用したクライフ時代の[3-4-3]と比較しつつ、偉大なチームの戦術を読み解いてみたい。
ファン・ハールが作り上げた90年代のスーパーチーム
ルイス・ファン・ハールがアヤックスの監督に就任した1991年から退任する97年までの6シーズンは「マイティ・アヤックス」と呼ばれた黄金時代でした。
その後、ファン・ハール監督はバルセロナを2度、オランダ代表を3度率い、AZとバイエルン、マンチェスター・ユナイテッドの指揮も執っています。紛れもない名将の1人ですが、たぶん嫌いな人も少なくない気がします。
嫌われている理由は、おそらく全く空気を読めない、あるいは読まない人だからだと思います。オランダ人はわりとこの傾向があるように感じるのですが、すごく白黒はっきりしているんです。思ったことをはっきり言う。トヨタカップで来日した際、国立競技場の芝生について「まるで競馬場だ」と発言していました。構想外の選手には「使わない」とはっきり告げますし、記者会見でマイクが壊れそうな音量で自説を展開するなど、どうにも好感度が上がりようにないデリカシーのなさです(笑)。
監督キャリアの最後の方はかなり落ち着いてきたみたいですけど、アヤックスの監督時代は相当変わった人にしか見えませんでした。ただ、その6シーズンは輝かしい経歴の中でも特別でした。リーグ3連覇、CL優勝と準優勝、UEFAカップ、トヨタカップも獲っています。プレーぶりは強烈で、現代のサッカーにも大きな影響を与えたスーパーなチームでした。
ちなみにファン・ハールがアヤックスのコーチから監督に昇格した91-92シーズン、欧州王者となったのがバルセロナでした。ヨハン・クライフ監督の「ドリームチーム」ですね。そして3シーズン後にはアヤックスがCL優勝を成し遂げます。どちらも超攻撃型の[3-4-3]システム。92年夏の欧州選手権でリヌス・ミケルス監督が率いたオランダも[3-4-3]でした。ミケルスとクライフは師弟関係ですが、クライフとファン・ハールは仲が悪いので有名です。
ただ、この時期のバルセロナ、アヤックス、オランダは非常によく似ていました。見た目はほぼ同じ。それなのに、なぜファン・ハールとクライフはあそこまで相容れなかったのか。この不思議を考えると、ファン・ハール監督を理解する手がかりになるかもしれません。
クライフ時代の[3-4-3]を踏襲、ただし結果は「上」
85-86から3シーズン、クライフ監督下のアヤックスは[3-4-3]システムを披露しています。たぶん世界で最初だったと思います。その後3シーズンおいて就任したファン・ハール監督の[3-4-3]はクライフ時代を踏襲したものでした。


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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
