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【インタビュー】元参謀ドメネク・トレントが明かすグアルディオラの実像

2020.08.14

彼の仕事の次元を正確に理解できるのは、彼が辞めた後だろう

近年、書籍やドキュメンタリーなどを通して片鱗に触れる機会こそ増えているものの、核心については未知のベールに包まれている部分が少なくない指導者グアルディオラの哲学。そんなペップイズムを、実体験をもって語れる数少ない人物が口を開いた。ドメネク・トレント。 バルセロナBでの監督デビュー時から10年以上にわたりグアルディオラの右腕を務めた男が、20年5月のブンデスリーガ再開直前にドイツ『キッカー』誌の取材に応じたインタビューを特別掲載。

 「アジアで働くこともできた」とドメネク・トレントは言う。だが、彼にその意志はなかった。2019年11月にニューヨーク・シティ監督の座を退いてから、ブラジル、チリ、メキシコからもオファーが来ていた。彼自身が強調するように、「自分の意志で」チームを退いた。実際に、クラブも彼を引き止めたかったようだ。「だが、私はヨーロッパに帰りたかった。そして、夏から欧州サッカーのリズムで動きたかったんだ」。最も勝手をよく知っているのは、ラ・リーガだ。「だが、ブンデスリーガやプレミアリーグの知見も見劣りしない。1日、最低2試合は分析している。午前中はスペインかイングランド。午後は、必ずブンデスリーガの試合だ。ブンデスリーガにはたくさんのタレントがいるからね」。

 最初のインタビューの直前には、ヘルタ対ブレーメンを見ていた。次のインタビューの時はDFBポカールのバイエルン対シャルケ戦でシャルケの敗退を見たばかりだった。さらに次に話した時は、パエリアを作っていた。「料理が得意なんだ」。デザートには、RBライプツィヒ対レバークーゼンが待っていた。その試合が終わると、電話でのインタビューを続けた。

分析家のブンデス評

フィジカル面ではスペインよりも優れ、 戦術面、技術面でも追いついてきている

── トレントさん、あなたはなぜ、それほど熱心にブンデスリーガを追いかけるのですか?

 「楽しいからだよ。3月はじめのライプツィヒ対レバークーゼンのようにね。1‒1、ファンにとっては素晴らしい宣伝になった試合だ。とりわけ前半は、技術的に高水準の試合だった。レバークーゼンのパスワークは、とても気に入った。とはいえ、あの試合だけではないよ。好例として挙げただけでね」

── 具体的には、何の例ですか?

 「ブンデスリーガのプレーレベルの高さだ。フィジカル面では、いまだにスペインよりも優れている。さらに、戦術面、技術面でもだいぶ追いついてきている。そして、素晴らしいタレントと興味深い若手監督を数多く見ることができる」

── その中で、誰に目が行きますか?

 「本当にたくさんだよ。ジョバンニ・レイナは、ニューヨークの我われの下でアカデミーに所属していた。ジェイドン・サンチョはマンチェスター・シティ時代から知っている。アルフォンソ・デイビスとは、バンクーバー時代にMLSで対戦したことがある。彼には素晴らしい未来が待っている。ティモ・ベルナー、イブラヒマ・コナテ、ダヨ・ウパメカノ、エセキエル・パラシオス、パウリーニョ。当然、カイ・ハベルツもだ」

── ハベルツのどんなところを評価していますか?

 「若い。ゴール前での脅威、信じられないほどの技術も兼ね備えている。彼のような長身の選手で、ここまでの技術を備えていることは稀だ。ピッチ上では、置かれた状況の中で自分自身が優位に立ち、支配的な状態になれるような自然な感覚を身に着けている。私がイメージするようなサッカースタイルにとって、ハベルツは理想的な選手だ」

トレントが高く評価するカイ・ハベルツ。現在はチェルシー行きの可能性が報じられている

── 彼の獲得にチャレンジしないビッグクラブは、ほとんどありません。

 「当然だ。彼のクオリティを持ってすれば、世界中のどのクラブでも通用する。それがバルサやシティであってもね。彼はトップ・オブ・トップのクラブでプレーする選手だ。ところで、もし私が監督をするなら、ユリアン・バイグルとは常に一緒に仕事をしたいね。彼の技術とパスの能力があれば、バルサでプレーできるよ」

── しかし、バイグルはドルトムントからベンフィカに移籍して、サッカーシーンの中心から少し離れてしまいした。

 「彼は、試合の流れを作ることができる。ただ、適切な環境や信頼、そしてチームのビジョンが必要なだけだ。彼はワンタッチ、ツータッチで素晴らしい展開を作り出す選手だよ」

── ユリアン・ナーゲルスマンについても話していましたね。

 「彼のトレーニングは見たことがないが、そこから導き出される結果は見ている。それらは、彼の秀でた能力の証明でもある。そして、ダイナミックなサッカー、たくさんのゴール、少ない失点、そして豊富なバリエーションを示している。それに素早いトランジション。見る価値があるサッカーだ。観客にたくさんの見どころを提供している。これは、大事なことだ」

── なぜですか?

 「なぜなら、サッカーはエンターテインメントだからだ。スリリングであるだけじゃ駄目なんだ。もっと言えば、それに結果が付いてくるということは、戦術的にも非常に多くの見どころがあるということだ」

出会い、役割、内外から見た評価

ペップは、変えることを目的に変更を加えることはない……

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キッカー

1920年創刊。週2回、月曜日と木曜日に発行される。総合スポーツ誌ではあるが誌面の大半をサッカーに割き、1部だけでなく下部リーグまで充実した情報を届ける。

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