ブレントフォードがまたも斬新な取り組みを始めた。アカデミーを廃止し、「エリート・ディベロップメント・スカッド」と呼ばれるBチームを立ち上げたのだ。その思惑とは?
イングランド2部には、徹底的なイノベーションを継続するブレントフォードというクラブが存在する。フットボール版マネーボールという命題を掲げ、様々な統計データを活用する施策で話題になったクラブは、2016年にアカデミーを廃止。英国内でも育成力を評価されていたアカデミーを手放したことで、現在多くのビッグクラブが「ブレントフォード・アカデミー出身者」の獲得競争を繰り広げている。彼らはなぜ、アカデミーを手放すという大胆な試みに挑んだのだろうか。
その判断を主導した男は、デンマークのミッティランで会長としてデータ革命を支えたコンサルタント、ラスムス・アンカーセン。クラブの公式発表において、彼らは現状のアカデミーが抱える問題を「アカデミー卒業前から強豪クラブが才能の引き抜きを狙っている今、アカデミーというシステムでの育成は困難になってきている」と表現した。その代替策として用意したのは、若手中心で構成されるBチーム(エリート・ディベロップメント・スカッド)だ。彼らはデータ革命に伴って整備したスカウト網を最大限に活用し、主として北欧から10代後半の選手を獲得。トップチームのチャンスが与えられやすい立ち位置で、集約化したエリート育成に挑んでいる。斬新なプロジェクトは多くの若手有望株を魅了。チャンピオンシップ(2部)クラブのBチームに年代別代表クラスの選手が名を連ねている事実は示唆に富む。2018年には国内最優秀若手プレーヤーに選抜されたU-21フィンランド代表のヤーッコ・オクサネン(18歳)や、U-20デンマーク代表でも活躍するルカ・ラシッチ(20歳)は虎視眈々と昇格のチャンスを待つ。また、話題になったのはアイスランド代表のコルベイン・フィンソン(19 歳)で、彼はブレントフォードB からA代表に選出された。
ユースの大会に参加するわけでもなく、自由にトレーニングマッチを組む彼らは「強豪クラブのユースチーム」と頻繁に対戦し、相手を圧倒。バイエルンやマンチェスター・シティのユースチーム相手でも見劣りしないパフォーマンスで、ヨーロッパ中のスカウトを熱狂させている。前述したフィンソンは今夏ドルトムントに引き抜かれており、新たなモデルケースとなりそうだ。アカデミーよりもトップチームに近い「Bチーム」に所属することでチャンスが増えることを選手たちもポジティブに受け入れている。Bチームでの活躍からチャンスをつかみ、1200万ポンド(約16億円)でボーンマスに移籍したクリス・メファムは好例だ。彼らの目指す育成モデルが成功する時、強豪クラブからの引き抜きに脅えているアカデミーの課題が解決されるのかもしれない。
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。