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エクアドル戦分析:苦手戦術に 屈しなかった「勝つべき試合」

2019.07.02

平野将弘の日本代表テクニカルレポート

若手中心の陣容で20年ぶりのコパ・アメリカに挑んだ日本代表。勝利を手にしたチームが決勝トーナメント進出、引き分けならともにGS敗退という状況で迎えたエクアドルとのGS最終節は、先制しながら追いつかれドロー。2分1敗で残念ながら8強にはあと一歩届かなかった。欧州の現場を知る指導者の目にこの一戦はどう映ったのか。イングランドのカーディフでコーチを務める平野将弘氏が分析する。

 超互角の試合は文字通り、両者仲良く勝ち点1を分け合って試合を終えた。同時にそれは、日本代表のコパ・アメリカでの戦いがフィナーレを迎えたという意味でもあった。この試合ではチリ戦とウルグアイ戦の2試合で学んだことや経験したことをプレーで表現することができ、グループステージ3試合の中では最もプレーに成熟性と安定性が見えた試合だったと言っても過言ではない。当然結果が求められる世界なので、日本代表の戦いぶりが満場一致で称賛を受けることは難しいが、個々の選手たちは貴重な経験をしたし自信にも繋がったと思う。

 国内組の選手がボールに対するプレッシャーの速さや強さを肌で感じれたことは大きい。まだまだ成長の余地があるので、Jリーグに戻ってからもファーストタッチの質や体を使ったプレー、そして球際の強さを意識してプレーに磨きをかけてほしい。海外組については、出場機会に恵まれていなかった選手たちが大会の中で試合勘を取り戻していき、ポテンシャルも披露してくれた。

 また、今大会で主体となった五輪世代の若い選手たちにとっては、A代表経験が豊富な川島永嗣、岡崎慎司、柴崎岳の3人からピッチ内外で勉強することが多かったに違いない。特に柴崎はこの大会中、虎視眈々とボールを前線へ供給するばかりでなくリーダーとしてチームを牽引し、逞しさがうかがえた。

エクアドルのプレシアードと競り合う柴崎岳
持ち味の配球はもちろん、守備でも体を張った柴崎

前半:エクアドルのプレッシング

 ではここからは、エクアドル戦に焦点を当ててパフォーマンスを分析していきたい。

 前節ウルグアイ戦の先発メンバーから1人だけ変更し、安部裕葵のところに久保建英が入った。プレー時間や試合間隔の観点から、弱冠18歳の選手であることを考慮し起用法を決めた代表スタッフのアプローチは称賛されるべきだろう。一方のエクアドルも同じく1人のみの変更で、前節退場処分を受けたアチリエルのところにミナが入った。

 前半、エクアドルのシステムはボール保持時が[1-4-1-4-1] 、ボール非保持時は自陣では[1-4-1-4-1]、敵陣ではセントラルMFから1人を1列目に上げて[1-4-4-2]を形成した。そして、試合開始早々から日本のディフェンシブサード内で人数をかけ、激しいハイプレスを意図的に仕掛けてきた。人にしっかりとつき、下図のように日本陣内の3分の1のエリアに6人もの選手が入って日本のボールを襲うシーンもあった。

図は4分53秒のシーン。エクアドルは開始直後から怒涛のプレスを仕掛けてきた

 このアプローチは非常に理にかなっていた。過去の試合のレポートでも言及していたが、強度の高いプレッシャーを受けている状態での日本の後ろからのビルドアップには脆さがあったからだ。実際、前半の日本はビルドアップ時にペナルティエリア内で2回もボールを失い、相手に得点機を与えている。両方の得点チャンスをエネル・バレンシアが“見逃して”くれたので結果的に助かったが、これらの過ちは失点とほぼ同義とみて良いだろう。ウルグアイのルイス・スアレスやカバーニ、チリのエドゥアルド・バルガスだったら見逃してくれなかったはずだ。

 このエクアドルの、日本陣内でセントラルMFを1列目に上げるタスクはほぼメンデスの担当だった。彼はこの骨折れる仕事をサボらずに遂行。チームがボールを失うと、後ろのブロックが整備されたのを確認して果敢に日本のCBのところまでプレスをかけた。

エクアドルの左MFメンデスは守備時になるとポジションを上げ、日本のビルドアップに圧力をかけてきた

 日本にとっては我慢の時間だった。ただ、エクアドルが中2日ということもあり、序盤からこの強度でプレッシャーをかけていれば試合終盤には疲労によりプレー強度が落ちることが予想できた。日本は2度大きなミスを犯したものの、相手のプレスに怯むことなく柴崎をCB間に持ってきたりしながらショートパスを繋いでボールを運んだ。冨安健洋に関しては左CBとして、自信を持って利き足ではない左足を使ったプレーをディフェンシブサードで見せ、ボールを運ぶ際により“角度”を作ることに成功していた。何気ないことだが、日本の先制点のスタートとなったスローインは、冨安が左足で外にボールを置き、左足でボールを蹴ったこと生まれたものだったのだ。またこのシーンでは、久保の位置を把握した杉岡大暉の認知と視野、狭いエリアと時間の中で見せたパスの質の部分は正当な評価をされるべきだと主張したい。さらに、この試合でも輝かしい活躍を見せた中島翔哉も難しいボールと距離にもかかわらず、よく枠内に押し込んでくれた。

先制ゴールを挙げた中島。初戦チリ戦後には守備に関する批判の声が上がったが、試合を経るごとにチームとしてのアプローチが整理される中でしっかりと自らのタスクをこなした

 得点に直接絡んだ選手以外に目を向けると、板倉滉は両足を使ったプレーで日本の攻撃に落ち着きをもたらした。彼のバックグラウンドを鑑みて、CB間に下りるのは柴崎ではなく板倉でも良いのではないかと感じた。ボールを奪われた際のネガティブトランジションで、そのまま上背がありDF能力に長ける3人(2CBと板倉)で対応できるからだ。密集地でもボールキープでき、前を向いて縦パスを送ることのできる柴崎を前でプレーさせた方が得策だと考える。久保に関しては、エクアドルが前がかりでプレスをかけている時はライン間に位置して、自陣で[1-4-1-4-1]のDFブロックを形成している時には巧くアンカーの脇でボールをもらうことができていた。日本のボール非保持時の際も前線は彼と岡崎というゲームインテリジェンスがあり、ハードワークも厭わない2人だったので前からのプレスは常に狙いを持ちながらできていた。

 前線2人のプレスに関してより詳しく見ておこう。エクアドルがディフェンシブサードでボールを持っている時にボールサイドのFWがしっかりとプレッシャーをかけに行き、もう1人は相手のアンカーをケアするシーンはウルグアイ戦に比べて増加。後ろのMFラインとDFラインもFWの動きに連動できていた。ただ、ロングボールを使いボールを早く敵陣へ送るエクアドルのプランやGKドミンゲスのロングパスの質の高さもあり、次第にミドルゾーンでのゾーン守備が主体に。FWの2人が無駄追いすることはなく、ライン間に大きなギャップが生じることはなかった。加えて、そのゾーン守備に関しても成熟性と一貫性が見られた。中島を前線に残すパターン1と、中島がMFラインで守備参加するパターン2を用意し臨機応変に対応することができていた。中島が前線に残っている際には、クリアボールや最初のパスを拾った段階で前に3人のカウンターアタック隊がいるので、ポジティブトランジションが1つの狙いにもなっていた。

中島が前残りするパターン1。図は11分4秒の場面
中島がMFラインに加わるパターン2。図は32分3秒の場面

後半:日本の反転攻勢

 エクアドルはボール非保持時にMFラインからFWラインへの移動を繰り返し行なっていたメンデスをハーフタイムにベンチへ下げ、ウイングのプレシアードを投入。後半からは一貫して[1-4-4-2]でプレーした。メンデスの費やしたエネルギーと、基本システムを[1-4-4-2]にして日本とかみ合わせることでそのまま人に当てるとともに、より攻撃的な選手を起用して得点チャンスの確率を増やすという意図が推測できる。

 後半開始直後こそはサイドチェンジを使いながらチャンスを作っていたが、時間が経つにつれて疲労が見え始め足が止まってきていた。ボール非保持時にMFとFWラインの6人の距離が前半よりも格段に広がってきたことで、日本は後ろからよりボールを運べるようになった。さらに両サイドMFの中島と三好康児がより中に入ってプレーするようになり、相手ボランチのところで位置的、稀に数的優位の局面を作ることに成功。それから、中に入るだけではなく積極的に外でプレーする頻度も増やし相手を混乱させた。またこの時、日本のSBは両サイドMFのポジショニングや取り組んでいるタスクに合わせて位置を取っているように見えた。両サイドMFが主導で動き、もしサイドMFが中に動いたら外のスペースを埋め、ファイナルサードのサイドレーンで1対1を仕掛ける場面では、相手を撹乱させるために大外をオーバーラップ。日本のボール保持時の戦術が影響し、この大会を通して彼らSBの運動量やタスクの量はかなり多かっただろう。その条件下でA代表初出場をコパ・アメリカで飾った杉岡、岩田智輝、原輝綺、立田悠悟にとっては簡単ではなかったはずだ。

 後半途中に投入された上田綺世は、その素晴らしいポジション取りにより自分と味方に多数のシュート機会を与えた。特に80分過ぎからは複数のゴールチャンスを造り上げたが、最後のフィニッシュの精度とその前のボールの置きどころに精彩を欠いた。

 「これを決めていれば……!」というシーンを多く思い浮かべる読者の方がいらっしゃると思うが、実際の客観的な攻撃に関するデータを見ると枠内シュート数のスタッツ以外はほぼエクアドルが日本よりも上回っていたのが事実。主観で試合を見ていた限りだと最後まで我慢強くプレーし、交代とシステム変更を試合終盤にうまく利用しながら決定機を必要量作った日本が勝つべき試合であったと感じた。

 しかし、南米の強豪がこうした状況下でゴールを決め切る狡猾さや勝負強さを持ち合わせているのに対し、我われ日本人は、サッカーの世界ではそうした特質を彼らに比べて欠いている。そうした科学の力では証明することも解決することもできない部分の何かも必要であり、その科学ではない部分にも目を配ることや力を入れることが、日本がW杯優勝という目標を達成する重要な鍵となるのかもしれない。これはこの“南米”選手権で日本の試合をつぶさに見て、率直に思った感想だ。


戦いはいよいよ準決勝へ。コパ・アメリカはDAZN独占配信!

Photos: Getty Images

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エクアドル代表戦術日本代表

Profile

平野 将弘

1996年5月12日生まれ。UEFA Bライセンスを保持し、現在はJFL所属FC大阪のヘッドコーチを務める。15歳からイングランドでサッカー留学、18歳の時にFAライセンスとJFA C級取得。2019年にUniversity of South Walesのサッカーコーチング学部を主席で卒業している。元カーディフシティ