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モハメド・サラー、エジプトの「王」。密集地でも冴える2つのスピード

2018.06.19

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 CL決勝での負傷退場は、輝かしいシーズンの最後にはふさわしくない残念な終わりだったかもしれないが、それでもモハメド・サラーの圧倒的なパフォーマンスは人々の記憶に焼きついている。来シーズンは、メッシとロナウドという2人の怪物だけが住んでいた世界に、エジプトの英雄が足を踏み入れることを許されるのかもしれない。CL決勝という夢舞台にたどり着いたリバプールをけん引するエースは、プレミアを席巻した破壊的なトリデンテの一角を担った。

足下に置いて、予備動作なくズドン

 少年時代、ストリートでボールを蹴り始めたサラーは父親に才能を見出され、地元クラブに加入。偶然にも別の少年をスカウトに来たプロクラブの関係者が実力を認めたことで、夢だったプロ選手への扉が開く。スイスのバーゼルで花開くと、一気にチェルシーにまでステップアップ。しかし、粗削りの才能は評価されず、空回りを続ける。「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」にたとえられた俊足を武器に果敢にサイドを突破するが、その後が続かない。ライン際の狭いスペースに追い込まれ、難しいプレーになってしまう。

 戦術大国イタリアへの移籍は、最高のタイミングで訪れた。フィオレンティーナ、ローマでの経験によってオフ・ザ・ボールのスキルを磨き、クロップ率いるリバプールへ。メッシのような狭いスペースを突破するスピードと、ロナウドのような長距離で相手を振り切るスピード。2つの異なるスピードを使い分けられるのが、サラーを封じるのが難しい理由でもある。トランジション(攻守の切り替え)の局面と、相手がリトリートした局面。デ・ブルイネやアザールのように、トップクラスのアタッカーには様々な局面で攻撃の形を作り出すスキルが求められる。

 イタリア時代は、ダイレクトでのシュートや抜け出しての1対1でのゴールが主体で「速攻の形」を得意としていたが、プレーの幅はリバプールで劇的に広がった。今季はエリア内の密集地からのゴールも増えており、中距離からのシュートでも得点を奪えるようになっている。密集地でのプレーを支えるのは、予備動作の少ないシュートテクニックだ。シュートを撃つ前にボールを自分の体から離す場面が少なく、重心の下にボールを置いた状態からキックを放つので、相手DF とGK はタイミングを合わせづらい。細かいタッチでエリア内を切り裂き、相手の反応するタイミングを外しながらゴールを狙えるサラーは危険な点取り屋として覚醒した。メッシを彷彿とさせる力の抜けたシュートフォームで、冷静にコースへ流し込む。

「大きめのタッチ」が罠

 足下にボールを置いた状態からのシュートが可能になったことで、副次的に新たな武器が増えたことも見逃せない。不必要となった「シュート前に助走をつけるような少し大きめのタッチ」はまき餌のフェイントとして使われる。シュートのタイミングを隠す技術とともにシュートを誤認させる技術を習得したことで、相手との駆け引きで優位を保てる。

 中距離からのシュートでは一方で大きめのタッチを使い、正確で威力のあるシュートを狙うこともできる。ミドルシュートを放つ時にもインステップキックではなく、広い面でボールを捉えるようなインフロントキックを使うことで高い精度のシュートが撃てる。

 中央のフィルミーノが前線に張らずに様々なスペースに顔を出すこともあり、ハーフスペースでのプレーも増えている。その中で、今シーズンはDFを背負った状態からのプレーでも輝きを放っている。背負った状態から相手を外し、そのまま密集地に飛び込むプレーもこなせるようになったことで、自陣側を向いて縦パスを受けた状況から仕掛ける形も完成した。どんなゾーンからでもゴールを狙えるようになったスピードスターは、相手の守備陣にとっては悪夢に近い。俊足プレーヤーが陥りがちな罠である「スピードへの依存」にはまることなく、エジプトの怪物は着実にプレーの幅を広げている。

Mohamed SALAH
モハメド・サラー

1992.6.15(26歳)175cm / 71kg EGYPT

PLAYING CAREER
2010-12 El Mokawloon
2012-14 Basel (SUI)
2014-16 Chelsea (ENG)
2015   Fiorentina (ITA) on loan
2015-16 Roma (ITA) on loan
2016-17 Roma (ITA)
2017-  Liverpool (ENG)

Photos: Getty Images

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FIFAワールドカップエジプト代表モハメド・サラーリバプール

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。