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17歳FWがゲイ公表。LGBTQ+への理解が遅れる英サッカー界は変われるのか

2022.06.12

同性婚が合法化されている英国でも、その告白は衝撃をもって受け止められたという。イングランド2部ブラックプール所属のFWジェイク・ダニエルズによる、ゲイであることのカミングアウトだ。同性愛者への嫌悪感が蔓延る男子サッカー界において、17歳の勇気ある行動は一大転機となるだろうか。

 「32年間で2人」から「32年ぶりに1人」へ。進歩のようには聞こえないかもしれないが、実際には非常に前向きな変化がイングランドで起こった。前者の「2人」とは、2011年から2013年にかけてリーズ(当時2部)とスティーブネッジ(当時3部)に在籍したロビー・ロジャースと、ユース時代の2000年に移籍したアストンビラやウェストハムでプレーしたトーマス・ヒツルスペルガー。それぞれ元アメリカ代表と元ドイツ代表の両者は、プロとしてイングランド国内のピッチに立った選手としては1990年のジャスティン・ファシャヌ(故人)以来初めて、同性愛者であることを公表した人物として知られてきた。いわゆる“カミングアウト”は、ともに現役引退後(ロジャースは1度目)のことだった。

 対する後者の「1人」は、去る5月16日に『スカイスポーツ』のインタビューでゲイであることを明かしたジェイク・ダニエルズ。「自信を持って、自由を感じながら、本当の自分でいられると思えるようになった」と発言したブラックプール(2部)のFWは、現役中にカミングアウトした男子プロ選手としてファシャヌに次ぐ英国史上2人目となった。

タブーも同然の過去。先駆者ファシャヌは命を絶った

 1年限りでプレミアリーグを去って11年になるチームでの出来事ではある。しかもダニエルズは、その9日前にチャンピオンシップでのデビューを果たしたばかりの17歳。プロとしてのキャリア自体が4カ月目という、国内でも限りなく無名に近い選手だった。筆者も、今年2月のFAユースカップ準々決勝でのプレーを見ていたはずが、チェルシーのゴール前でGKの体越しに巧妙な先制点を決めたブラックプールU-18チームの9番と、テレビカメラの前で堂々と「自分」を語ったパーカー姿の青年が、すぐには結びつかなかった。

 しかし、ダニエルズが与えた衝撃の大きさはワールドクラスの超美技にも劣らない。英国のボリス・ジョンソン首相や、イングランドFA(サッカー協会)の総裁でもあるウィリアム王子までもが、その勇気ある行動を称えている。「イングランドのサッカー界にとって素晴らしい出来事だ」と反応したのは、『スカイ』でも解説を務めるギャリー・ネビルだが、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる者)、クイア(規範的な性の在り方以外を包括的に意味する)やクエスチョニング(自らの性の在り方が特定の枠に属さなかったりわからなかったりする者)の頭文字を取って「LGBTQ+」の総称で呼ばれる、性的マイノリティの世界にとっても画期的な出来事に感じられた。

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LGBTQ+ジェイク・ダニエルズ

Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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