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マンチェスター・ユナイテッド×ラングニック、ポジティブな変化と深い闇

2022.01.21

レッドブル流サッカーの創設者として名高いラルフ・ラングニックがマンチェスター・ユナイテッドの暫定監督に就任して、1カ月と少しが経過した。ここまで良い変化がいくつかあり、変わらず残った問題もたくさんある。筆者の正直な感想としては「最悪でこそないものの、想定よりやや悪い」といったところか。ここでは、革命家と進化の遅いチームが混ざり合ったことで生まれた化学反応をあらためて振り返ってみたい。

ユナイテッドDNAとのマッチ

 ラングニックがマンチェスター・ユナイテッドの暫定監督に就任するという話を聞いた時は、「手札の中ではベストに近いベターな選択」という印象を受けた。

 というのも、2021年夏の時点ではアントニオ・コンテ(現トッテナム)など有名監督がフリーの状態であったが、オーレ・グンナー・スールシャールを解任した11月下旬の段階では契約可能な大物がほとんどおらず、選択肢なんてものはあってないようなものだったからだ。それを思えば、強化責任者を務めていたロコモティフ・モスクワからラングニックを引き抜いてきただけでも評価できた。

 また短期的な適合性はともかく、フィジカルに優れた選手たちを集め、ハードワークを重んじ、縦に速い攻撃的なサッカーを志向する「レッドブル的なサッカー」と「ユナイテッドDNA」は親和性が高いものに思える。

 ラングニックの過去を振り返ると、彼自身は監督としてトップリーグでタイトルを重ねてきたわけではない。ただし思想をチームに植え付ける能力や、強化担当者としての手腕は折り紙付きだ。シーズン後には暫定監督を退任し、コンサルタントとして選手の人選からその後の補強まで新監督をサポートするという体制は非常に魅力的に感じた。

ピッチ内に生まれた変化

 鳴り物入りでマンチェスターにやって来た63歳の指揮官は、就任直後からイングランド北部のビッグクラブに様々な変化をもたらした。

 ピッチ内ではまず、イングランドでは見慣れない[4-2-2-2]がメインのシステムとなった。ボール保持時は両翼が同サイドに密集してパスを回し、積極的に縦パスを前線に供給。ボールを失っても密集を維持しているからこそ、すぐに奪い返せるという算段だ。ただし中だけを狙っているわけではない。ウイングが中央に位置する分、SBはワイドの高い位置にポジションを取る。相手チームの守備陣に中央を固められることが多いため、結果的にユナイテッドは高い位置にいるSBに展開しながらボールを運んでいくことになる。

 こうしてサッカーが変わったことで、何人かの選手のプレースタイルに変化が見られた。わかりやすかったのは前線の守備意識だろうか。スールシャール体制下では守備をある程度免除されていたクリスティアーノ・ロナウドやマーカス・ラッシュフォードは、明らかに運動量が増えた。

 他にも、中盤の選手に変化が生まれた。SBが常に大外の高い位置にいることがルール付けられた結果、ボランチからSBへのサイドチェンジが増えたのだ。スコット・マクトミネイやフレッジは、もともと長いボールでの展開が少ないタイプだった。彼らの変化は良化と捉えていいのではないか。

 特にマクトミネイに関しては、遠い距離までノーステップで速いボールを届けるキック力がある。今はまだ精度が十分ではないものの、将来への投資と思えば、いくつかのミスにも目をつむれるだろう。加えて大型のスコットランド代表MFは、ラングニックの下で積極性も覚え、以前よりもボックス内に侵入して決定機に絡む機会が増えている。

 現在のユナイテッドにいくつかポジティブな変化が発生していることは確かだ。

1月19日のブレントフォード戦(○1-3)で左からエランガ、アレックス・テレス、ラッシュフォード、ブルーノ・フェルナンデス、マクトミネイ

戦術と選手のミスマッチ

 一方でこのドイツ人指揮官の到来は、同じく監督交代を断行した1年前のチェルシーほどチームを劇的に良化したわけではなかった。トーマス・トゥヘルが選手の特性ありきで戦術を展開したのに対し、ラングニックは自身の実現したいサッカーに選手をはめようとした。しかし残念ながらユナイテッドの一部のパズルはうまく噛み合わず、描きたい情熱的な絵図はいまだ完成していない。

 正直、この点は当初から懸念事項としてあった。ラングニックのサッカーはGKを除く10人がハードワークして初めて成立するサッカーである。だが赤い悪魔にはロナウド、ラッシュフォードという、明らかに守備強度に難のある選手がいる。しかも彼ら2人とも中心選手であり、スカッドのバランスが悪い状態だった。彼らは以前よりも守備をするようにはなったが、レッドブル基準に達しているかというと悩ましい。

 加えてこのサッカーには、高いレベルのゲームメイク能力を持つボランチも必須である。マクトミネイやフレッジはラングニック到来以後に成長を見せたものの、チームの特別な武器になるほどのレベルではない。

 チームにポジティブな変化は起こったものの、ラングニック流を高いレベルで実現できるというほどではなかった。もとより今季からの成功は難しかったのだ。

新生ユナイテッドは昨年12月5日の初陣から公式戦5勝3分1敗。7試合中6試合が対ボトム10だったプレミアリーグでは4勝2分1敗で、現在も7位(10勝5分6敗)にとどまっている

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Profile

内藤 秀明

1990年生まれ。大阪府箕面市出身。大学時代に1年間イギリスに留学し、FAコーチングライセンスを取得。現在はプレミアリーグを語るコミュニティ「プレミアパブ」代表としてイベントの企画運営や司会を行っている。2019年1月に初の著書『ようこそ!プレミアパブ』を上梓。Twitterアカウント:@nikutohide WEBサイト:https://premierleaguepub.jp/ YouTubeチャンネル『ふとふれ』:https://www.youtube.com/channel/UCUqWyN9txseCK55qhqxPddA