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「プレミアリーグの特殊事例」ハメス・ロドリゲスの手品

2020.12.09

ウルティモ・ウオモ分析

昨年12月から指揮を執るカルロ・アンチェロッティの下で2シーズン目を迎えたエバートン。今季のチームを牽引する一人が、レアル・マドリー、バイエルンを経て新加入した29歳、ハメス・ロドリゲスだ。イタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』の特別コラム(2020年9月25日公開)をお届けする。

 私は手品やトリックの熱心なファンというわけではない。しかし、それを目にするたびに今も2歳の子供みたいな気持ちにさせられる手品が一つだけある。誰かの目の前で掌からコインを消してみせ、それを相手の耳の後ろから取り出すという、最もありふれた、そしておそらく最も「易しく」習得できる類いのそれだ(YouTubeにはたくさんのチュートリアル動画がアップされているが、私はあえて見ないようにしている)。あまりにもたやすく私の視線を玩(もてあそ)ぶマジシャンの手練手管に、心を動かされてしまうのだ。

 そう、ハメス・ロドリゲスのパスもそれと同じように、私を2歳の子供みたいな気持ちにさせる。ハメスは手品師のように相手の目の前からボールを消し去る。そして次の瞬間、ボールは別のところに現れるのだ。これ見よがしのフェイントはしない。するとしたら脚や腰をほんの少し動かすだけのシンプルなものだ。目の前の相手は棒立ちのまま次の一手を待ち受ける。するとハメスはチップキックでボールを敵DFラインの向こう側にふわっと送り込んでしまう。そうでなければ左足を鞭のようにひと振りしてDF2人の間、どちらが足を出しても数cmだけ届かないところを通してしまう。狭いスペースでは足の内側、外側、そして裏を自在に使い分けて相手からボールを隠し、次の瞬間、その「耳の後ろ」へと動いた味方に送り込む。その味方が見えているのは彼だけだ。ハメスがボールを持った途端、サッカーはとても「易しい」ゲームに見えてくる。

 ハメス・ロドリゲスはプレミアリーグにやってきたばかりだ。マドリッド、ミュンヘンに続いて今度はリバプールの地に彼を呼び寄せたカルロ・アンチェロッティが初めて彼をピッチに送り出したのは、チームに合流してからわずか5日後のことだった。エバートンにとってハメスの獲得はピッチ上にとどまらずピッチ外における重要性も持っている。リバプールだけでなくマイアミ、ニューヨーク、そしてボゴタ(母国コロンビアの首都)でも入団発表イベントが行われた。

 レアル・マドリーとの契約があと1年で満了するタイミングだったこともあり、支払われた移籍金は約2000万ポンド(約27億円)と格安だった。しかしハメスは今でもSNSのフォロワーが最も多いスポーツ選手の1人だ。少なくともここ2年間は安定した出場機会を得ることができず、そのキャリアはピークを越えて下り坂に入ったというイメージもあるが……(実際、1年前にはYouTubeに「ハメスがどれだけ凄いか忘れるな」と題した動画がアップされていた)。

 このところ故障が多かったことは確かだ。もともと強靭な肉体の持ち主とは言えないだけに、29歳を迎えた今、プレミアリーグのフィジカル的な負荷に耐えられるのか、という疑問が持ち上がるのは当然だろう。だが初舞台となった開幕節トッテナム戦(0-1/9月13日)の最初の20分、ハメスは最終ラインまで下がってCBからボールをもらい、そこから持ち上がって前線にキラーパスを送り込むという、コロンビア代表としてブラジルW杯でブレイクした時(大会の得点王だった)と同じ動きを演じてみせた。

 「ハメスの身体言語は古き良き時代の品格、否、あらゆる時代に通用する品格を備えたプレーヤーのそれだ」

 バレンティーノ・トーラは『ウルティモ・ウオモ』に寄稿したブラジルW杯準々決勝(ブラジル対コロンビア)の分析記事の中で、ハメスのプレーをそう評し、続いて次のように付け加えた。……

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ウルティモ・ウオモエバートンハメス・ロドリゲス

Profile

ウルティモ ウオモ

ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。

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