戦術か、個の爆発か――“不完全”が生んだミュンヘンの宝箱
新・戦術リストランテ VOL.114
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第114回は、CL準々決勝バイエルン対レアル・マドリー。戦術的整合性と個の爆発力が交錯し、サッカーの本質を問い直す“カオス”となった。
そのサッカーは好きですか?
CL準々決勝、バイエルンvsレアル・マドリーはオモチャ箱をひっくり返したような試合になっていました。
開始30秒ほどでノイアーのミスパスをギュレルがダイレクトシュートで決める波乱のスタート。バイエルンはアウェイで勝ち取った1点のリードを1分も経たずに失います。しかし6分にはCKからパブロビッチが決めて1-1。2試合合計で再びの1点リード。
そして、ここからは宝の山。これが見られたから良かった、と思えるような珠玉のプレーがボンボン出てきます。ケインのキックは何であんなに飛ぶのか、オリーセの切り返しがでかすぎないか? ムバッペ速すぎるだろ! 1試合に1回あればというプレーが、無造作に転がっている壮観。ビニシウスの縦突破をウパメカノの長い足が絡め取り、スタンドのファンもご満悦。
ギュレルが美しい軌道のFKを決めてレアル・マドリーが再びリードすると、バイエルンはウパメカノのパスからケインが決定力を見せつけて2-2。42分、これぞレアル・マドリーなカウンターからビニシウス→ムバッペで2-3。
後半に入るとアレクサンダー・アーノルドの彼しか出せない高速アーリークロスをムバッペがスーパーボレー、これをGKノイアーがスーパーセーブ。
ホームのバイエルンは70%近い保持で押し込んでの包囲戦。レアル・マドリーは典型的なカウンター狙いの、いわば弱者のサッカーなのですが、カウンターの殺傷力がものすごく、全く弱者には見えません。
ある意味、試合を決めたのは双方のプレーのバリューからすれば、本当に取るに足らない些細な出来事でした。61分から交代出場したカマビンガがイエロー2枚目で退場。2枚目は遅延行為ですからね。ともあれレアル・マドリーは10人に。しぶしぶMFのラインに入って守るビニシウス。ムバッペを残しての[4-4-1]となりました。
3分後、ルイス・ディアスがムシアラとのワンツーから決めて3-3(合計5-4)。ロスタイムにオリーセが見事な個人技からトドメの4点目。
もちろんレアル・マドリーの面々は判定に不満爆発。ベンチにいたギュレルにレッドカードが示され、後味の悪さを残した……と書きそうになりましたが、正直全然後味は悪くない。そんなことなど、どうでもいいくらい面白い試合でした。
戦術?再現性?構造?――それがどうした
レアル・マドリーには戦術がない、再現性がない、構造がない。よくそう言われますが、「それがどうした?」と言わんばかりのプレーぶりでしたね。
……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
