
サウダージの国からボア・ノイチ 〜芸術フットボールと現実の狭間で〜 #16
創造性豊かで美しいブラジルのフットボールに魅せられ、サンパウロへ渡って30年余り。多くの試合を観戦し、選手、監督にインタビューしてきた沢田啓明が、「王国」の今を伝える。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第16回(通算194回)は、国産監督の人材不足が深刻なブラジルに、彗星のごとく現れた39歳について。昨年10月からフラメンゴを率いる元セレソンの左SBが、指導者として一躍脚光を浴びている。
外国人登用が進む王国の監督界で
近年、ブラジルでは自国人監督への評価と信頼が低下し、資金力があるビッグクラブはこぞって優秀な外国人監督を招へいしている。
そのきっかけを作ったのが、2019年から20年にかけてリオデジャネイロの名門フラメンゴを率いた経験豊かなポルトガル人ジョルジュ・ジェズス(70歳。5月2日までサウジアラビアのアル・ヒラルを指揮)。母国のベンフィカやスポルティングなどで実績を残した名将は、攻撃的なプレースタイルで2019年にコパ・リベルタドーレスとブラジル全国リーグの2冠を達成した。
それに続いたのが、同じくポルトガル人のアベル・フェレイラ(46歳)だ。2020年10月にサンパウロの強豪パルメイラスの監督に就任すると、コパ・リベルタドーレスを2度、全国リーグを2度、コパ・ド・ブラジルを1度制覇と、ジェズス以上の成功を収めている。
2019年から昨年まで6年間の3大タイトル(コパ・リベルタドーレス、全国リーグ、コパ・ド・ブラジル)のうち、外国人監督が実に半数の9を獲得。この背景には、伝統的にブラジルのフットボールが個人技を重視するあまり戦術を軽視する傾向があったこと、ブラジルサッカー連盟(CBF)による指導者養成コースの整備が遅れたことなどの問題点が横たわる。……



Profile
沢田 啓明
1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地でフル観戦し、人生観が変わる。ブラジルのフットボールに魅せられて1986年末にサンパウロへ渡り、以来、ブラジルと南米のフットボールを見続けている。著書に『マラカナンの悲劇』(新潮社)、『情熱のブラジルサッカー』(平凡社新書)など。