REGULAR

パリで魅せられた日本代表の勇姿、ブラインドサッカーの奥深さ

2024.09.22

おいしいフランスフット #8

1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第8回(通算166回)は、足に吸い付くドリブル、意表を突くボール出し、バスケットボールのようなスピーディーな展開、ラグビーのような肉弾戦……パラリンピックで堪能した“ブラサカ”の魅力をお伝えしたい。

あらゆる要素が詰まった、あっという間の“90分”

 パリで開催されたパラリンピックでブラインドサッカーを観戦してきた。サッカーを日常的に取材している身でありながら、ブラインドサッカーを生観戦したのは初めての経験だったのだが、これが予想をはるかに上回る面白さだった。

 エッフェル塔のふもとに設けられたオープンエアのスタジアムで行われたブラインドサッカーは、パリパラリンピックの中でも特にチケットが取りにくい競技の一つで、公式チケットサイトでは完売。再販サイトに誰かが売りに出すと、秒速でなくなるというプラチナチケットだった。ゆえに観戦したグループリーグ最終戦の日本対アルゼンチン(9月3日)のチケットも、再販サイトに5分おきにアクセスし、アップされた瞬間に押さえてなんとかゲットできた(映像を見るとスタンドには空席もあるが、2試合を観戦できるチケットだったので、もう一つの試合目当てのサポーターの席が空いていたりするのだ)。

 ブラインドサッカーについて、自分自身も覚えたばかりの基礎的な部分をご紹介すると、ベースはフットサルで、5人対5人で行われる。

 フィールドプレーヤーの4人は、視力に障がいがある選手が務める。それでも個人差があるため、公平を期す意味もあって、選手はアイマスクをした状態でプレーする。ゴールキーパーは弱視、または晴眼の選手だ。

 コートサイドには監督、そして相手のゴール裏にも“コーラー”と呼ばれるガイドが立ち、フィールドの選手たちに声で指示を出す。よって、試合中はピッチ上の5人と合わせて7人体制となる。

 コートの大きさはフットサルと同じ40m×20mだが、両サイドには高さが1mほどのボードが設置されている。ボールがラインアウトしないようにするためのもので、このボードにボールを当てて跳ね返りを利用したり、壁を使ってボールキープしたりと、戦術的に活用されるのも見どころの一つだ。

 ボールの大きさもフットサルと同じ。転がすとシャカシャカと音が鳴るようになっていて、選手たちはこの音でボールの位置を確認したりするので、観客はプレー中は静かにしていないといけない。

 また、ボールを持ったプレーヤーに向かっていく時は、相手に知らせるために「ボイ!」と声を出すのがルール。これを怠るとファウルを取られる。

 試合は15分ハーフで、10分間のインターバルを挟む。東京大会は20分ハーフだったが、それが15分に短縮されたようだ。

今大会の会場はエッフェル塔前の広場に建てられた「エッフェル塔スタジアム」(Photos: Yukiko Ogawa)

 ボールが出た際などゲームが止まると時計を止めるので、アディショナルタイムはなく、バスケットボールのように15分からスタートして0秒になると試合終了。1試合が終わるとだいたい90分くらいが経過しているのだが、そんなに時間が経っていたとは信じられないほど、あっという間だった。……

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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