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リーグ戦全試合が前売で完売。エディオンピースウイング広島がもたらした「1161億円以上の価値」

2024.06.18

サンフレッチェ情熱記 第13回

1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始し、以来欠かさず練習場とスタジアムに足を運び、クラブへ愛と情熱を注ぎ続けた中野和也が、チームと監督、選手、フロントの知られざる物語を解き明かす。第13回は、2月のこけら落としから約4カ月経った新スタジアム「エディオンピースウイング広島」のチーム内外の評価、中国財務局が1161億円と試算した経済効果、そして地元・紙屋町・八丁堀地区に与えた影響について考察してみたい。

選手たちの絶賛続々…ホームゲームの熱量は最高潮!

 「いいね、すっごくカッコイイじゃん」

 日本代表の10番・堂安律が6月10日、エディオンピースウイング広島のピッチに初めて足を踏み入れた時、思わずこんな言葉を漏らした。翌日、日本がシリアを5-0で下した後、南野拓実が「素晴らしい臨場感があって、いい雰囲気だった。ここでやる広島の選手が羨ましい」と語った。

W杯アジア2次予選、第3回の「Team Cam」。堂安の「いいね、すっごくカッコイイじゃん」は14:27から

 欧州の素晴らしいスタジアムをいくつも経験している彼らの言葉は、このスタジアムの価値を高めてくれた。ただ実は、Jリーガーも広島の新スタジアムについて高く評価している。

 例えば2月10日、スタジアムのこけら落としに出場したG大阪の宇佐美貴史は「海外のすごく良いスタジアムと比べても遜色ない。個人的にすごく好きなスタジアム。作りや(スタンドとの)近さ、スタジアムの雰囲気、立地。僕らのスタジアム(パナソニックスタジアム吹田)も良いスタジアムですけど、広島さんは全てにおいてパーフェクトなスタジアムを手に入れたなと思いますね。こういったスタジアムでプレーできる選手たちは、Jリーグの中からも羨ましいと思われるんじゃないかなと思います」

 またGK一森純は「素晴らしい雰囲気でした。一言ではまとめられない。日当たりも風通しも良くて、観客とピッチも近い。こういうスタジアムが日本中にできたら、サッカーの熱も高まっていくんじゃないかなと思います」と称賛した。

 元広島で今は鳥栖の中心として頑張っている長沼洋一は3月9日、初めてこのスタジアムを訪れた際、笑顔で「最高ですね」と語っている。GK朴一圭は「やばい。(このスタジアムは)すごいね。ここで勝てたら最高だね」と試合前に口にした。

 こういう気持ちはおそらく、他の選手たちも少なからず、持っていると感じる。それは5月6日、広島から今季初勝利を奪った長谷川健太監督の言葉で確信に変わった。

 「ウチの選手たちも非常にテンションが高かった。G大阪の新スタジアムの時も感じましたが、(アウェイから来た)選手たちのモチベーションが高い。なので、どの試合でも好ゲームになる」

 実際、エディオンピースウイング広島での試合は、常に熱い。3月30日のG大阪戦は1点リードされたその直後、新潟から移籍したばかりの新井直人が強烈なシュートを決めて同点に追いついた。4月28日、川崎Fを迎えた試合では広島が先制した後、川崎Fが逆転し、その直後に加藤陸次樹の今季初得点で広島が追いつく。5月6日の名古屋戦では、広島が敗れはしたが2点差を追いつく粘りを見せた。

 今季、ここまでのホームでのリーグ戦9試合、退屈な試合は1つもない。広島が敗戦した2試合も、大勝した試合でも、ホームチームだけでなくアウェイチームも、心を折れることなく闘い続ける。スタンドから見ても、選手たちのスピリットはしっかりと伝わっていた。

 特にホームチームの熱量は顕著だ。実際、広島は今季、ホーム9試合で1度も得点ゼロだった試合はない。9試合中複数得点が6度。1試合平均2.22得点というすさまじい数字である。

平日ナイターでも2万5000人超え、レジーナも倍増以上

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Profile

中野 和也

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルート・株式会社中四国リクルート企画で各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するレポート・コラムなどを執筆した。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。以来10余年にわたって同誌の編集長を務め続けている。著書に『サンフレッチェ情熱史』、『戦う、勝つ、生きる』(小社刊)。

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