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ディブは子供たちのアイドル!GKの地位を変えた意外な人気者エミリアーノ・マルティネス

2024.06.02

EL GRITO SAGRADO ~聖なる叫び~ #5

マラドーナに憧れ、ブエノスアイレスに住んで35年。現地でしか知り得ない情報を発信し続けてきたChizuru de Garciaが、ここでは極私的な視点で今伝えたい話題を深掘り。アルゼンチン、ウルグアイをはじめ南米サッカーの原始的な魅力、情熱の根源に迫る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第5回(通算164回)は、変な顔をしながらトロフィーを股間に当てるだけじゃない、2022年のW杯ゴールデングローブ、ザ・ベストFIFA男子ゴールキーパー&2023年のヤシン・トロフィー受賞者で、アルゼンチンにおけるGKのイメージを完全に変えてみせた31歳の守護神について。

メッシに次ぐ人気、メッシ同様の“クラブ愛を超える”偉大な存在

 アルゼンチンで「代表チームの人気者」と言えば、一番は文句なしにリオネル・メッシだが、その次がレジェンドのアンヘル・ディ・マリアでも中盤の汗かき屋ロドリゴ・デ・ポルでもなく、「ディブ」ことエミリアーノ・マルティネスだと言ったら驚かれるかもしれない。

 カタールW杯決勝で見せた大胆不敵な態度からフランスではすっかり嫌われ者となり、今年4月にUEFAカンファレンスリーグでリールと対戦した際にはボールを持つたびにブーイングを浴びる羽目となったアストンビラのGKだが、母国では絶大な人気を誇るアイドル的存在。特に幼児から小学生の子供たちから愛されていて、その人気のほどは私も日々目に見える形で思い知らされている。

 例えばつい先日、近所のおもちゃ屋のショーウィンドウにメッシとディブの人形が並べられていた時のこと。妙にリアルな作りで可愛くもカッコ良くもなく、そもそもどんな年齢層をターゲットに作られているのかがまったく読めない人形だったため、私はせいぜい国民的英雄メッシの方しか売れないだろうと思っていた。

 ところが後日、店の前を通ってみると、先に売れたのはなんとディブの方で、独りぼっちになったメッシがウィンドウに貼り付けられているではないか。「売れ残りメッシ」が買ってくださいと言わんばかりにへばり付いて必死にアピールする姿に同情しつつ、英雄を差し置いてまずディブが売れるという予想外の展開に興味を抱いた私は、一体どんな人が買って行ったのかをおもちゃ屋の店員に聞いてみることにした。彼の話によると、購入者はディブが大好きという幼稚園児を息子に持つ父親だったそうで、他にディ・マリアとフリアン・アルバレスの人形もあるが、メッシとディブが圧倒的に売れているらしい。

 また、今年2月に取材でアルヘンティノス・ジュニオルスの施設を訪れた時は、練習のために集まった子供たちの中に、ディブの背番号23が付いたアルゼンチン代表のGK用ユニフォームを着ていた子を何人か見かけた。どの子もアルヘンティノスのチームカラーと同じ赤のアウェイユニフォームを選んでいたところに揺るがない帰属意識が表れていたものの、この国では自分の贔屓クラブの出身者でもない選手の名前と背番号を付けるなんてことは「Messi 10」(メッシの10番)以外にあり得なかったはず。つまりディブはメッシと同じように、アルゼンチンのサッカー文化の基盤となる「クラブ愛」を超える偉大な存在となっているのである。

Photos: Chizuru de Garcia

お前なんか食ってやるぞ!“GKはサッカーが下手”な国で異端なスターに

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Profile

Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

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