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痴話喧嘩は犬も食わぬ…だったヘスス・ナバスのセビージャ退団騒動

2024.05.20

サッカーを笑え #15

スペインを驚かせたセビージャ主将の「出て行く」発言は、その2日後に一件落着、「生涯契約」締結が発表された。2003-13と2017-24の在籍17シーズンでクラブ歴代最多の689試合に出場(39得点119アシスト)、4度のUEFAカップ/EL優勝を含む8タイトルを獲得したレジェンドの、二転三転した決断の背景には何があったのか。もう彼らに振り回されるのはやめよう……。

 「セビジスタのみなさん、今日クラブとチームメイトにセビージャを出て行くことを告げました。難しい決断でした。セビージャとファンにもらった愛情に感謝します。ここでタイトルとともに人生最高の時間を過ごしました。心から感謝します。またすぐにサンチェス・ピスファンで会いましょう」

 ビデオメッセージとともに告げられたヘスス・ナバスの退団は、大きなサプライズだった。私を含め、多くのファンもフロントも別れを告げるとすれば引退する時と思い込んでいたからだ。

 38歳となったが体力の衰えは感じさせない。数年前から腰痛に苦しみ、今季も欠場した試合はあったが、それ以外は絶対的なレギュラーで、スペイン代表として今夏のEURO2024にも招集確実と見られている。出れば必ず全力を尽くすコンペティティブさと、控えでも文句を言わない謙虚な姿勢の2つを兼ね備えるレジェンドは少ない。ルイス・デ・ラ・フエンテ代表監督は、W杯、EURO、ネーションズリーグを制覇した唯一の欧州出身選手である彼を、戦力としても若手の見本としても信頼しているようだ。

 当然、セビージャフロントもシーズン終了後に契約更新をオファーするつもりだったが、その前に本人が退団を発表してしまった。会長も監督も知らされたのは当日、5月16日の朝という急さだった。

 前兆はあった。

 前日15日のカディス戦(●0-1)、84分に交代するとベンチに下がる途中に泣き出し、ベンチでも涙を流していた。今から考えると、これが別れの涙だったわけだ。ホームゲームはもう1試合残っている。最終節のバルセロナ戦(26日)がお別れゲームになる。

今のセビージャの生ぬるさへの嫌悪感

 なぜ、「セビージャで引退する」と言っていたレジェンドが出て行く決断をしたのか? 囁かれているのは、“腐ったロッカールームに嫌気が差した”説だ。

 実は今季スタート時の4人のキャプテンのうち2人までがすでに退団、ヘスス・ナバスが3人目となる。

 まず2023年12月末にフェルナンドが契約解除を発表(その後ブラジルリーグへ移籍)。次に2024年1月末イバン・ラキティッチがサウジアラビアリーグ行きを発表した。ともに36歳でレギュラーとしてシーズンをスタート。退団の理由はフェルナンドは「家庭の事情」で、ラキティッチが「監督との戦術面の食い違い」だった。ともに自らが退団を申し込む形で去って行った。

フェルナンドとラキティッチ。現インテルナシオナウの前者は2019年からセビージャでプレー、現アル・シャバブの後者は2011-14に所属し、2020年に復帰を果たしていた(写真は2023年1月)

 今月になってフェルナンドはスペインメディアのインタビューに答え、「家庭の事情」とは別の退団の理由を明かしているのだが、それがラキティッチと今回のヘスス・ナバスの内面を代弁しているのでは、とされる。

 以下、フェルナンドの言葉。

 「うまくいかなくなると、いろんなことが見え始めた。メンタルが異なっているんだ。勝っても負けてもどうでもいい、という選手が多くいた。負けても笑い声が聞こえてきた。あそこに居続けるわけにはいかなかった」……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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