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クロップ最大の功績は「心」の世界。リバプールのファンは幸せだ

2024.02.03

Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜1

プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る

footballista誌の創刊当初から続く人気連載のWEB移行初回(通算235回)は、就任9年目の今季でリバプールを去る56歳のドイツ人監督、クラブの垣根を越えて慕われたユルゲン・クロップの魅力について。

成功するために「ファンの心に残る試合を重ねる」

 リバプール指揮官としてのユルゲン・クロップの功績とは? 1月26日の「今季限り」発表を受けた国内報道から判断すれば、クラブを「変身させた」ことになる。厳密に言えば、本来あるべき姿を取り戻させたということだ。

 紛れもない事実ではある。2015年10月に就任した当時のリバプールは、通算5度目のCL優勝も10年前の出来事。プレミアリーグ優勝争いでは蚊帳の外が当たり前になっていた。例外的な2013-14シーズン、ブレンダン・ロジャーズ(現セルティック監督)前体制下のチームが、生え抜きキャプテンだったスティーブン・ジェラード(現アル・イテファク監督)の残酷なまでに有名な“尻餅”で1990年以来となるリーグ優勝の夢を断たれる結果となった際には、未来永劫にあり得ないのではないかと思えたファンもいたに違いない。

 そのリバプールを、クロップが優勝候補常連へと立ち返らせた。2019年のCL優勝と翌年のプレミア優勝をはじめ、過去8年間で国内外計7冠。通算468試合で285勝と、クラブ歴代最高の勝率60.9%を記録してもいる(本稿執筆時点)。最終シーズンとなる今季も、中盤の総入れ替えが物語る新チーム作りの最中でありながら、首位に立つリーグ優勝争いを含む4冠の可能性を残している。

 だがクロップという監督が持つ最大の魅力は、こうした数字の世界を超越している。このプレミアファンは、そう思っている。それは「心」の世界。配下の選手たちはもとより、「12人目」との絆の大切さと強さを直感的に理解していればこそ、彼らにとってのリバプールがいかに重大な存在であるかをハートでわかっているからこそ、9年目の今季が「限界」だと感じられるほどエネルギーを消耗した。……

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Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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