FC町田ゼルビアの競争原理を象徴。“ボランチ戦線”の道程を辿る
ゼルビア・チャレンジング・ストーリー 第5回
町田の名を全国へ、そして世界へ轟かせんとビジョンを掲げ邁進するFC町田ゼルビア。10年以上にわたりクラブを追い続け波瀾万丈の道のりを見届けてきた郡司聡が、その挑戦の記録を紡ぐ。
第5回は、今季チーム内で競争が最も激しいポジションとなっているダブルボランチの用兵について。序盤から首位をひた走りながらも、多くの選手や組み合わせが試されてきた理由や狙い、そこに表れているクラブのマインドに光を当てる。
左サイドのスペースを攻略した荒木駿太からのパスを、ボックス内に進入した安井拓也が冷静に決め切ると、大型ビジョンには0-6というスコアが刻まれた。サイド攻略を起点とした4ゴールに加え、鮮やかな直接FKを含む中距離砲が2つ。4試合ぶりとなる勝利は、これ以上ない派手な“ゴールラッシュ”だった。
V・ファーレン長崎戦のスコアラーは6人を数え、その中にボランチの選手が3人も名を連ねた。以前、シュート練習を終えた黒田剛監督は「どうりでボランチの選手にゴールがないわけだ」とボランチのシュート精度を嘆いていたが、それも遠い昔の話になったかのようだ。松井蓮之、下田北斗に安井。ボランチの選手が得点者に数多く名を連ねるのは稀有な現象とも言えるが、それだけ現在の町田で、ボランチのポジション争いが熾烈を極めている証だろう。
目下のファーストチョイスは、川崎フロンターレからの育成型期限付き移籍でプレーしている松井。一見、松井の立ち位置は磐石に映るが、「ポジションが確保されていると安心した瞬間からチームは綻びが生じる」という黒田監督の方針があるため、松井自身は「いつでも代えられる危機感に満ちている」。
チームメイトの下田も「伸び代がまだまだある」と目を細める成長著しい松井の相棒は、下田や黒田監督の教え子である宇野禅斗、そしてサイドハーフ起用と併用されてきた安井が選択肢に。直近の長崎戦では安井が輝いたため、松井の相棒はしばらく安井が勢力図の中心になるかもしれない。
いずれにせよ、今季の“ボランチ変遷”を振り返ることは、健全な競争の下、黒田監督を筆頭としたコーチングスタッフの手腕によって、チームがマネジメントされてきた証を、実証することにも繋がるはずだ。
快進撃の間も序列には変化が
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Profile
郡司 聡
編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。