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1分8秒の失点で冷や汗も…窮地を乗り切ったダリッチ監督【クロアチア 4-1 カナダ】

2022.11.28

翌日更新! カタールW杯注目試合レビュー

モロッコ戦のスコアレスドローで窮地に陥っていたダリッチ監督。カナダ戦を前にした記者会見でも精神的な焦りを感じさせる発言が目立った。迎えたカナダ戦でも1分8秒で失点。しかし、前回大会のファイナリストはここから自力の高さを見せつけた。

13時キックオフでバイオリズムを乱した?

 カナダ戦を前日に控えた公式会見。表情が冴えないクロアチア代表のズラトコ・ダリッチ監督は、冒頭から新たな持論をぶちまけた。

 「初戦を13時キックオフで戦ったことが私たちのバイオリズムを乱してしまった。あの試合でのエネルギー欠如は早い時間帯のせいだと考えている」

カナダ戦前日会見でのダリッチ監督

 極めて内容が乏しかったモロッコ戦の試合後、「クロアチアはハンドブレーキを引いた選手が大多数だった。縦への攻撃や決断力があまりに少なかったことには少し憤りを感じているし、勇気も欠けていた」と内側に矛先を向けた指揮官だったが、選手たちの感情に配慮して外側に原因を求めたのかもしれない。

 ベルギー戦後のカナダのジョン・ハードマン監督が選手たちに「クロアチアをf**kしてやろうぜ!」と活を入れた件が世論を賑わせており、それに関する質問がダリッチ監督にも投げかけられた。それに対しても回答は13時キックオフへの疑問だった。

 「クロアチアは誰からもリスペクトされるべき代表チームだ。そのプレーや振る舞い、結果を持ってして。私たちが誰に対しても敬意を払ってきたように、私たちにも敬意を払うことを期待している。そもそもクロアチアが13時からプレーするなんてリスペクトに値しない。イングランドやスペイン、フランスやブラジルはそんな時間帯にプレーしていないじゃないか。私たちは前大会の準優勝チームだ。クロアチアが受けるべき扱いではないはずだ」

 クロアチアが支払う放映権料は微々たるもので、時間帯の希望を通すのは無理な話だ。サッカー大国のアルゼンチンだってサウジアラビアとは13時キックオフで対戦している(ちなみにアルゼンチン時間の朝7時キックオフ)。ダリッチは代表監督就任以前にサウジアラビアとUAEのクラブで7年間指導し、「中東のスペシャリスト」の肩書きを持っていた人物だ。初戦の1週間前にはサウジアラビアの首都リヤドに赴き、同国との親善試合を13時キックオフで戦っている。勝てなかった要因を「バイオリズム」のみに求めるのは苦しさを感じてしまった。

クロアチアサッカー協会の公式Twitterでは、ダリッチ監督が実際に語った内容を和らげて掲載した

 苦しい会見はさらに続く。カナダ戦のスタメンについて聞かれたダリッチ監督はこう答えた。

 「ロシア大会では11人中10人のスタメンが知られていたが、現在は11人中9人までが知られている。選手層は広く、良い選択肢もあるだけに(残り2枠に)誰を起用しても大きな誤りはないと信じない。しかし、当時のスタメンはリバプール、マドリー、インテル、ユベントス、ミラン(※当時フランクフルト所属のアンテ・レビッチを誤認)、バルセロナなどの選手で構成されていた。今のスタメンは幾分新しい。若い選手を信じていないとは言いたくないが、彼らは新たな世代だ。私たちはチームを形成している最中。とはいえ、チームを形成したいだけではなく結果も望んでいる」

 ロシアW杯以後は準優勝メンバーを優遇してきたものの、昨年のEURO2020でレビッチやシメ・ブルサリコの造反を経験したのを機にダリッチ監督は世代交代を推し進めた。ヤル気にあふれた新世代が次々と台頭し、UEFAネーションズリーグではフランスやデンマークを倒して決勝ラウンドに勝ち進んだのが、現在の新旧融合に成功したチームだったはずだ。確かに所属クラブの分布図は4年前に及ばないが、伸び盛りのヨシュコ・グバルディオルやロブロ・マイェル、ボルナ・ソサやルカ・スチッチにはビッグクラブの視線が集まっている。

 ところが、ダリッチ監督はカタールの地で「リセットボタン」を押してしまった。ビルドアップに課題を抱えるデヤン・ロブレン、チームにフィットしないアンドレイ・クラマリッチをベンチからレギュラーに戻した“戦術的逆行”がモロッコ戦のスコアレスドローに繋がった。いまだ4年前の栄光にしがみつき、言い訳や不平不満を連ねる指揮官に不信感が広がる中、クロアチア唯一のスポーツ紙『SN』の代表番、ドラジェン・アントリッチは試合前日にこんな見出しの記事を書き立てた。

 「ぼやきはもう結構。ダリッチはチームを奮い立たせなくてはならない! 歴史的な結果をもたらす巨大なチャンスが私たちには差し出されている……」

好チームのカナダ相手にクラマリッチ2発

……

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Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。