REGULAR

「合併」ではなく「ジョイントベンチャー」。東京武蔵野シティFCとの異例の提携の背景とは?

2021.02.18

不定期連載『東京23区サッカー新時代』

第2回:東京武蔵野ユナイテッドFC(後編)

海外に比べてプロ化の歴史が浅い日本サッカーは、後発ゆえに人口が集中する東京23区内にプロサッカークラブがない、というジレンマを抱えている。しかし、Jリーグ創設20年を超えた現在、23区内にJクラブを作る動きが同時多発的に起こっている。この連載では、新しいムーブメントの担い手たちの考え方に迫りたい。

第2回は、1月に発表された業務提携が話題になっている東京武蔵野ユナイテッドFC。後編では、引き続き福田雅氏に東京武蔵野シティFCとの提携の経緯を聞いた。

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理念への共感と、投資銀行マンとしての合理性

――(前編を受けて)その東京武蔵野シティFCとの提携の話を詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか? デュアルキャリアで培われたソリューション(解決策)を提供する力が生きたとのことでしたが。

 「去年8月の東京武蔵野シティFCからのリリース(一般社団法人横河武蔵野スポーツクラブへのチーム移管ならびに、Jリーグ百年構想クラブの返上)を拝見して、いったい何が起きているのだろうかと思い、移管先である横河電機さんに直接話を聞きたいと思いました。まず、いろいろな人に話を聞いてキーパーソンを探し始め、そんな中で横河電機本体の役員で、スポーツ事業の責任者の方の存在にたどり着きました。横河電機のサッカー部で監督をされた経験をお持ちで、関東リーグからJFLに自ら引き上げた一流のサッカー人で一流のビジネスマンの方です。さらに話を聞くと、この方は単にJリーグ昇格がゴールという考え方ではなくて、企業として地域のために何ができるか、その活動を通じてのコミュニティづくりや人材育成こそクラブの存在意義であって、Jリーグへの昇格はクラブとしての一側面に過ぎないというお考えをお持ちだと知りました。直感的にこの人の考え方に、僕の描いているものは近いと感じました。この人に会いたい、でも失礼にならないようにちゃんとしたルートで会いに行きたいと考えました。そこで、みずほ銀行の副頭取にお願いをしました。実は、横河電機さんの担当の副頭取が東京武蔵野シティと東京ユナイテッドのサポーターだったんです(笑)」

――まさに半沢直樹の世界ですね。

 「副頭取から『福田という面白いやつがいます。一度でいいから会ってやってほしい』と話をしてもらって、いろいろな方のサポートもあり、面談が成立しました。そこで僕の思いのたけをぶつけたところ、ちゃんとした提案をしてくれと言われて、あらためて提案書を作って持っていきました。ポイントとしては、横河電機さんはかつて実業団クラブ(東京武蔵野シティFCの母体となったチーム)として活動していましたが、当時は従業員の方々で運営されており、会社から離れて地域のサッカークラブを経営していく人的なリソースがありませんでした。一方で、彼らにはJFLクラブとしてのステータス、80年にもわたる歴史と伝統、グラウンドをはじめとするインフラ、そして、地域に根差したアカデミーという素晴らしいアセットを持たれている。それに対して、僕らは何もないところからクラブを立ち上げて、クラブの運営という活動を10年間にわたりやってきたので、常にクラブ消滅の危機と隣り合わせの生き残りを懸けた活動の実績がありました。経営ノウハウというのはおこがましいけど、すべてを手弁当で始め、勝ち上がるために人集めとお金集めに奔走し、その過程で勝つことだけでは人を惹きつけ続けることはできないという現実も突きつけられ、だからこそ自分たちの存在意義や理念を研ぎ澄ませてきました。いわゆる、スタートアップ企業としてのバイタリティと不撓不屈の精神があります。

 このコロナ禍においては、どのスポーツクラブも将来の不確実性にさらされています。単独で存続・成長していくことは理想かもしれませんが、時間もお金もかかります。不躾ながらも、クラブの生き残りを懸けて互いのリソースを補完し合い、同時に新たな成長を描くべく、一緒にやりませんかと。もっと言うと、僕を使ってくださいと言いました。僕の人生を懸けてこのクラブを成長させてみせる。ただ、僕はJリーグがゴール、もっと言うとJリーガーがサッカー選手のゴールだとも思っていない。社会におけるサッカーのステータスを変えたい、サッカーに関わる人たちが安心して家族を守っていける社会をつくりたい。そのためにサッカーの価値を社会に訴求して、サッカーに接したことがない人たちに対して、サッカーの本当の価値を知らしめていくのが僕のライフワークですと。コミュニティのプラットホームとしてのスポーツの価値を具現化して、関わる人たちがみんな幸せを感じてもらえるようなクラブをつくりたい。その過程でJリーグというのも1つの手段かもしれないですが、その時にはしっかりとしたロジックと地に足をつけた経営戦略を持って参入すると決めている。そう真正面から言ったんですね」

――他とは差別化したビジョンを示したわけですね。今回の提携には賛否両論ありますが、単なる合併ではないということですか?

 「ストラクチャーに少し工夫があって、合併じゃないんですよ。そもそも、JFLのチームと関東リーグ(KSL)のチームは別個に存在し続けます。また、別にすべてを統合する必要はないんです。ビジネスの世界でもよくあることですが、企業にとって将来性はあるけれど、投資負担が大きくリスクも大きい事業は、当該部分のみ切り出し、外部の第三者と共同で運営することで、アップサイドとダウンサイドをシェアし合う。いわゆるジョイントベンチャー(JV)方式ですね。……

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。