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胸に記されたMとWの「88」って?賭博業とイングランドサッカー

2019.08.31

ユニフォームに書かれた「88」の数字とは

 今季のプレミアリーグの試合を見ていて、少し気になることがある。それがユニフォームに記された「88」である。

 これは数字なのだが、別に背番号というわけではない。ユニフォームの胸に記された数字なのだ。ボーンマスは「M 88」、アストンビラは「W 88」、ニューカッスルは「FUN 88」。当然これらはユニフォームスポンサーなのだが、実に3チームが胸に「88」を付けているのだ。

 察しが良い方なら、すぐに3社の業種に気付くはずだ。彼らはオンラインカジノなどの「賭博業」を生業とする会社である。アジア系の企業のため、縁起が良いとされる「8」を並べているのだろう。「8」という数字は、多くのアジア諸国で幸運の数字とされており、とりわけ中国では北京オリンピックが2008年8月8日の午後8時8分8秒に開幕したほどだ。

 だから「88」は賭博業社なのだが、以前から英国ではこのギャンブル業スポンサーを巡って様々な議論が行われている。というのも、今季プレミアリーグでは全20チームのうち実に半数(10チーム)が胸に賭博業のスポンサーを入れているのだ。さらに2部リーグに目を向けると、その数は24チーム中17チームだという。

イングランドでも、賭博を巡る議論が

 IR実施法が成立した日本でも「ギャンブル依存症」を懸念する声が聞かれるが、それは英国でも同じことだ。『ガーディアン』紙によると、労働党のトム・ワトソン副代表は、政権を取れたらフットボール界の「賭博業スポンサー」を禁止すると発言したそうだ。「ギャンブル業界は、フットボールを介した宣伝を減らすと宣言していたのに、広告が増えているじゃないか。彼らの言葉は信用できない。彼らが約束を守るか、規則を厳しくするかだ。ユニフォームスポンサーを禁止するとかね」と。

 警鐘を鳴らすのは政治家だけではない。英国系のブックメーカーであるパディー・パワー社(アイルランド)とラドブロークス社(イングランド)などは、自らユニフォームスポンサーからの撤退を発表している。パディー・パワー社に至っては、プレミアから2部に降格したハダースフィールドのスポンサーになると、今年7月の親善試合で肩から斜めに大きく「Paddy Power」と描かれたユニフォームを着用させた。だがこれは「ユニフォームスポンサー廃止」を呼び掛けるキャンペーンの一環で、直後に胸スポンサーなしのユニフォームを発表した。

 結局、今季から同社がスポンサーとなったハダースフィールド、サウスエンド(イングランド)、ニューポート・カウンティー(ウェールズ)、マザウェル(スコットランド)の4チームは、胸スポンサーの入っていないユニフォームを着用している。

2部ハダーズフィールドは、胸にスポンサー名が入っていないシャツを着用している

 無論、これはパディー・パワー社が得意とする話題作りの“人気集め”に過ぎないのかもしれない。だが先日発表されたユニフォームの販売数ランクで、2部のハダースフィールドはトッテナムやニューカッスル等を抑えて国内6位に入った。ファンは、胸スポンサーを欲していないのかもしれない。

 今年から、ブックメーカーやオンラインカジノが所属するギャンブル事業者団体も、自ら広告の規制に乗り出している。8月から、21時以前のスポーツのTV中継では、番組中(前後5分間を含め)に「賭博業」のCMを入れないという。ギャンブル業界が自ら定めた取り決めである。

 とはいえ、胸スポンサーやスタジアム広告はこれに該当しない。現時点では胸スポンサーを規制するルールはなく(ユースチームのユニフォームには禁止などのルールはあるが)、来季以降、さらに賭博業社スポンサーが増える可能性もあるのだ。


Photos : Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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