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U-20に続きU-17も南米王者に。ブラジルの育成年代を復権へと導いた長期プロジェクト

2023.05.07

 4月23日、エクアドルで25日間にわたり開催されたU-17南米選手権で、ブラジル代表が優勝を果たした。

 南米10カ国が争うこの大会で9戦7勝2分、参加チーム中唯一無敗の快進撃。2節を残してU-17W杯出場を決めたことも含め、今年2月にやはりブラジルが優勝したU-20南米選手権の再現のようだった。総得点24も10チーム中トップであり、5ゴールを決めたカウアン・エリアス(フルミネンセ)とハイアン(バスコ・ダ・ガマ)の2人が得点王に輝いた。

大会得点王となったカウアン・エリアス(9番)とハイアン(7番)

 指揮官のフィリッピ・レアウは、昨年2月にU-17代表監督に就任。それ以前の2017年から2019年にかけてブラジルサッカー連盟(CBF)に所属し、2019年にはU-15南米選手権やU-17W杯の優勝に技術スタッフの一員として携わっていた。その後、監督としてフラメンゴU-17チームでブラジル全国選手権とコパ・ド・ブラジルの優勝を達成し、中国の広州恒大U-15チームでの国際経験も経て指揮官としてCBFに復帰。指揮官としての重責を見事に果たした。

 彼は優勝の直後、こう語っていた。

 「スペクタクルだった。年代別代表での我われの挑戦の1つは、ブラジルにおけるサッカーの重要性、そしてサッカーが我われの文化であることを示すことだからね」

大会最終節前日、選手たちに語りかけるフィリッピ・レアウ監督

 このスケールの大きなコメントの背景には、今ブラジルが直面している状況と、それを打開するための取り組みがある。

 世界で唯一、W杯で5度の優勝を果たしているブラジルだが、2002年を最後に20年間そのタイトルから遠ざかっている。また、第19回を数えるU-17南米選手権での優勝は今回で13度目だったのだが、2019年の南米選手権では6カ国による最終リーグにも残れなかった(開催国枠で出場した同年U-17W杯では優勝)。さらに、先述したU-20南米選手権での優勝は12回目だったものの、直近2大会ではベスト4に残れずに終わっていた。つまり、育成年代も近年は結果が残せておらず、今年見事に復権したと言えるのだ。

復活の立役者

 こうした復活に大きく寄与したのが、2018年に育成年代代表の総合コーディネーターに就任したブランコである。現役時代はW杯3大会に出場、94年大会ではブラジル24年ぶりの優勝にも貢献した左SBだ。

 引退後、2003年から2007年にCBFで同様の役割を務めた他、フルミネンセなどブラジルのクラブでディレクターやプロチーム監督も経験している。そうした彼のすべての経歴が、年代別代表の統括やA代表との相乗効果、また全国のクラブとの良好な関係に生かされている。

 例えば、彼の陣頭指揮の下で進められているのが「年代別ブラジル代表調査分析センター」。五輪(2024年、2028年)とW杯(2026年、2030年)をにらんだ代表選手を準備するべく、中・長期プロジェクトによって観察および育成することを目的としている。

 そこでは、代表とクラブにおける選手個々のパフォーマンス分析が蓄積されており、観察する選手は数値的な基準だけではなくスタッフによる評価が重要視されているという。ブランコ自身とU-15、U-17、U-20の代表監督、技術オブザーバー、プレー分析担当者、生理学者、医療コーディネーターら様々な分野のスペシャリストによってチームが結成されている。

 選手の選択を誤る可能性を減らすために年代別代表の招集機会を増やし、1回の期間も長く取るようになった。また、その際には全国のクラブから各分野のスタッフや専門家も招集しているそうだ。

 パンデミック後、各種大会が再開され始めた2021年1月から2022年7月までの1年半に関して、一例としてこうしたデータが発表されている。

 センターが観察した大会は国内外を合わせて35。試合数は現地・リモートを合わせて2002。観察対象としたクラブは全国150。そのうち38クラブには現地訪問もしている。そこで観察した選手は9988人に上り、そのうち210人の選手がいずれかの年代の代表に招集された。

 観察と分析結果によって入れ替える前提で、「トップ」「選択可能」「モニタリング中」「観察中」という4つのカテゴリーを設け、誕生年別のすべてのポジションごとにその時点のトップ5の選手がわかるようになっているという。

 ちなみに、今回の南米選手権で優勝した現在のU-17世代(2006、2007年生まれ)ではここまで157人の選手がモニタリングされ、そのうちU-15代表から招集され始めたのが97人で、U-17代表に招集されたのは56人となっている。

U-17W杯出場枠獲得を決めて歓喜のロッカールーム

確かな手ごたえ

 A代表を含む全カテゴリーの監督と技術スタッフがCBF本部の同じフロアで仕事をしており、風通しは非常に良い。

 昨年5月には、ブランコの提案で年代別3つのカテゴリーの代表スタッフによる総合会議も行なった。監督以下、技術スタッフはもちろんロジスティック担当者、医療コーディネーター、栄養士、教育学者、ホペイロ、調理師、メディア担当者らが一堂に会して情報共有するとともに、直近の過去の大会分析と今後の大会に向けたプランの組み立てなどを話し合った。

 ブランコは語る。

 「年代別代表では選手の特徴や、その時点での活躍ぶりだけで招集するわけにはいかない。我われの目的はブラジルらしいメンタリティと、勝者のスピリットを植え付けることのできる選手たちを発掘し、良い形で育成することだ。

 大会結果はもちろん、代表での練習を見ても、選手個々のクオリティを見ても、今ブラジルサッカーからは素晴らしい世代が生まれてきていることを確信しつつある」

大会最終節の試合前にロッカールームでチームに檄を飛ばすブランコ

 今年は、今月20日に開幕するU-20W杯と、11月にはU-17W杯が控えている。長期的プロジェクトとはいえ、現時点での成果を確認するためにも重要な挑戦となる。

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U-17ブラジル代表

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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