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本能的なサッカー小僧、繊細で緻密な指導者になる。ロアッソ熊本・藤本主税ヘッドコーチが実感する幸せな迷いと学び

2024.03.30

コーチの肖像#6

現代のサッカーでは戦術、フィジカル、メンタルなど様々な分野が高度化しており、監督一人の知識やアイディアではなく、コーチングスタッフの力を結集しなければ勝てない時代になった。専門家集団を取りまとめる監督のマネージメント力はもちろん、リーダーを支えるコーチたちの力量もますます重要になってきている。普段は光が当たらない仕事人たちの役割に迫る。

第6回は、現役引退時のクラブとなったロアッソ熊本で指導者の道に足を踏み入れて早10年となる、藤本主税ヘッドコーチだ。

 ユニフォームを脱いでちょうど10年。指導者としての道を歩み始めるにあたって描いていた「5年で監督になる」というビジョンからは、倍の時間が経ってしまった。「進んでる方向はぶれてないけど、思ったより遠いな」というのが実感だが、若い選手たちと向き合いながら現場での日々を重ねる中で、経験豊富な指揮官のもとで新たな視点を学び続けることができることに、大きなやりがいと喜びを感じている。同時に、自らが理想とするサッカーへの思いは、より強く、確かなものになりつつある。

 J2のロアッソ熊本で、就任5シーズン目を迎える大木武監督をヘッドコーチとして支える藤本主税は、選手時代とは異なる迷いの中で静かにもがきながら、前に進んでいる。

打ち砕かれた自信。痛感した指導の難しさ

 2012年から3シーズン、熊本でプレーしたのち、2014年いっぱいで現役を退いた藤本が指導者としてのキャリアをスタートさせたのは、熊本ジュニアユース。中学2年の学年に、U-23日本代表の荒木遼太郎(FC東京)、樋口叶(高知ユナイテッドFC)らがいた。

 「選手あがりで、やれるという変な自信もあったんだけど……、それが全く打ち砕かれました。今考えると、選手たちには本当に申し訳なかったなという言葉に尽きますね。育成と勝利を求めていく中で、どういうふうにチームを作っていけばいいのか、この子達の1年後や将来を考えた時に今何が必要なのか、何をどう考えていけばいいのかも分からなかった。もちろん、その時は全力なんですけど、発想にしてもトレーニングにしても、その場しのぎでしたね」

 当時は熊本のアカデミーも過渡期で、トップチームのスタッフ人事の影響を受け、ユースやジュニアユースの監督・コーチが毎年変わるような状況があったのは事実。選手時代、北嶋秀朗氏(今季からクリアソン新宿監督)や堀米勇輝(サガン鳥栖)、橋本拳人(SDウエスカ・スペイン)らと、トレーニング後、食事をしながら毎日のようにサッカー談義を深めていたが、机上で思い描いたことを実際に育成年代の選手たちに指導するのは、簡単なことではなかった。

 「断片的なことは言えるし、理解もあるんですよ。ビルドアップをどうやるとか、スペースの取り方はこうだねとか、局面の話はよくしていたから。でも、それをチームとしてゲームの中で実践するには、局面に行くまでの道のりがあるわけですよね。だから、いきなりここを練習しようとしてもできない。本当なら1、2、3という段階を経ないといけないのに、いきなり3をやっちゃうみたいな、それがジュニアユース1年目の感じでした」

Photo: Takashi Iseri

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Profile

井芹 貴志

1971年、熊本県生まれ。大学卒業後、地元タウン誌の編集に携わったのち、2005年よりフリーとなり、同年発足したロアッソ熊本(当時はロッソ熊本)の取材を開始。以降、継続的にチームを取材し、専門誌・紙およびwebメディアに寄稿。2017年、母校でもある熊本県立大津高校サッカー部の歴史や総監督を務める平岡和徳氏の指導哲学をまとめた『凡事徹底〜九州の小さな町の公立高校からJリーガーが生まれ続ける理由』(内外出版社)を出版。