北中米W杯で侮れない、多種多様なアジア勢各国紹介~韓国、イラク、サウジアラビア、カタール編~
【特集】社会から文化まで!北中米W杯スペシャルコラム#1
W杯の魅力は、ピッチ上の勝敗だけでは語り尽くせない。サッカーを通して見えてくるのは、それぞれの国が抱える文化や社会、歴史、そしてときに政治との関係性だ。世界中の価値観が交差する北中米W杯を、多彩なテーマとともに掘り下げる。“もう一つのワールドカップ”が、そこにある。
第1&2回では北中米W杯で侮るなかれ。日本を除く、帰化戦略から政府主導まで多種多様な強化戦略を採ってきたアジア勢8カ国、韓国、イラク、サウジアラビア、カタール、オーストラリア、ウズベキスタン、ヨルダン、イランを、2回に分けて取り上げる(選手名に続く括弧内の年齢と所属は現時点)。
現地時間6月11日に始まるW杯。4年に1度開催されるサッカーの祭典は、今大会より出場国数が従来の「32」から「48」へ拡大。開催国がアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国共催なら、参加国も史上最大規模となる。
アジア枠も従来の「4.5」から「8.5」へと拡大された。ちなみに「0.5」はアジア、アフリカ、北中米カリブ海、南米、オセアニアの各大陸から計6チームが参加し、本大会への最後の切符を争う大陸間プレーオフ枠のことを指す。その結果、今大会はアジア予選を突破した日本、イラン、韓国、ウズベキスタン、ヨルダン、オーストラリア、カタール、サウジアラビア、そして大陸間プレーオフを制したイラクの9カ国が参戦することとなった。こんなに多くのアジアの国が出場するW杯は初めてであり、アジアサッカーファンの筆者としては、大きなワクワク感に包まれている。
しかし、世間の評価は残酷だ。W杯特集の記事や雑誌では強豪国のスター選手や日本代表の話題ばかり。他のアジア勢はダークホース扱いすらもされておらず、日本のサッカーファンですらどの国のどの選手が見られるのか曖昧な方も多いのではないか。これは前述した参加国拡大の影響で日本がさして困難な立場になることなく、アジア予選を突破したことも関係していると思われる。そこでここではW杯に出場するアジアの各国がどのような強化戦略をもってW杯へ挑むのか、解説していきたい。アジアは広く、その強化術も昨今のフットボール界を賑わせている帰化戦略から政府主導まで様々だ。北中米W杯を隅々まで楽しむ上で、知っておいて損はないだろう。
監督人事失敗とスター依存。巻き返しを図る韓国代表の今
A組に入った韓国はアジア最多、W杯出場12度目を誇る伝統国だ。前回のカタール大会ではポルトガル人指揮官パウロ・ベントに率いられ、ベスト16へ進出。監督の母国ポルトガルとのグループリーグ最終戦は2-1で劇的逆転勝利を収め、韓国国内は大いに盛り上がりを見せた。ところが契約満了を迎えたベントの後任、ドイツ代表とアメリカ代表の監督も歴任したユルゲン・クリンスマンの下でチームは崩壊。外国人監督ながら基本的に韓国に滞在した前任者とは対照的に「仕事のない時はアメリカの自宅へ帰る」というルーティンも国民の逆鱗に触れ、求心力を失ってしまう。そして迎えた2024年1~2月のアジアカップでは準決勝でヨルダン相手に0-2と力負け。ひたすらMFイ・ガンイン(25/パリSG)、FWソン・フンミン(33/ロサンゼルスFC)の個の力に依存するサッカーは、失望に値した。
その後なんと5カ月にわたる空席の末、ブラジルW杯を含む2013年6月から2014年7月の間にも同国代表で指揮を執ったレジェンドのホン・ミョンボが就任。韓国以外すべて中東勢で占められた北中米W杯アジア3次予選B組を苦しみながらも勝ち進み、首位突破を果たした一方、目の肥えた韓国サッカーファンからの支持は得られていないのが現状だ。
この4年でライバルの日本に大きな差を開けられ、アジアの他チームとも差が詰まりつつある韓国代表。原因はやはり、監督選考の度重なるドタバタ劇だ。ベント監督の選任は当時協会で代表監督専任委員長の役職を与えられたキム・パンゴンと、当時専務理事のホン・ミョンボが中心となって海外の多くの候補者と面談を重ねながら、じっくり専任した経緯があった。ところが、クリンスマン監督招へいにはチョン・モンギュ韓国サッカー協会会長の独断で決められたのでは?との批判が相次いでいる。すでに第一線から退いていたクリンスマンをこのタイミングで迎え入れるにあたっては国内外から疑問の声が上がっており、米国滞在問題も含めもとより懸念されていただけに、その退任時にはチョン会長の進退も問われていた。
後任人事も当初確定と言われたアメリカ人指揮官ジェシー・マーシュがカナダ代表監督に就任し、他の候補者との交渉も難航。かつてヴィッセル神戸などでプレーしたキム・ドフンが暫定監督を務めていたとはいえ、実に半年近く正式監督が不在となる異常事態となった。ホン・ミョンボ新監督もKリーグの蔚山現代から急遽呼び出された格好で、蔚山サポーターやKリーグ関係者からも批判される始末。W杯今大会まで契約を結んでいたと言われるクリンスマンへの違約金問題も相まって、韓国サッカー協会への批判は絶えないままだ。
そんな逆風の中でもホン・ミョンボ監督はキム・ミンジェ(29/バイエルン)を軸に、キム・ジュソン(25/サンフレッチェ広島:※負傷により本大会はメンバー外)、DFキム・テヒョン(25/鹿島アントラーズ)、イ・ハンボム(23/ミッティラン)ら新たに台頭したCBで3バックを固めて守備力を上げ、かつDFソル・ヨンウ(27/ツルベナ・ズベズダ)、イ・テソク(23/オーストリア・ウィーン)らウイングバック陣を生かす[3-4-2-1]の布陣を導入。また代表史上初となる国外出身のルーツ選手として注目されたMFイェンス・カストロプ(22/ボルシアMG)を招集するなど、世代交代にも積極的に取り組んでいる。
チームの完成度は決して高いとは言えないが、キム・ミンジェ、ソン・フンミン、イ・ガンインの「三銃士」にかかる負担を減らしつつ、目標のグループリーグ突破を狙いたい。散々な4年間ではあったが、イ・ハンボム、イ・テソク、ペ・ジュンホ(22/ストーク)、ヤン・ヒョンジュン(24/セルティック)らKリーグで実績を積み、アジア大会での金メダル獲得で兵役免除の恩恵を受けた後、欧州クラブへ移籍する“道筋”が開きつつあり、日本から指導者を呼ぶKリーグのクラブも多くなった。北中米W杯終了後にチョン会長が辞任するとのビッグニュースも飛び交い、韓国サッカー界には改革の風が徐々に吹きつつある。今後の飛躍に向けて、惨敗だけは避けたいところ。未来への足がかりとなるW杯にしたい。
あの「希望の星」に「Jリーグ監督経験者」。イラク代表の化学反応
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Profile
yosuke
杜の都に住むロンドン世代のフットボール好き。小中高とゴリゴリにフットボールをプレーしていたが、その一方で幼少期からアジアンフットボールをこよなく愛し、選手の帰化や、Jリーグにやって来そうな外国籍選手探しにも関心がある。SNS経由で知り合ったアジアの友人達と共に試合を観て周るのが夢。
