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【バルディ分析】マンツーマンの代償。名古屋の「ミシャ式」守備に潜む構造的リスク

2026.06.10

レナート・バルディのJクラブ徹底解析#20
名古屋グランパス(後編)

『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブとイタリア代表のアナリスト兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はクラブ・イタリアのマッチアナリストを務める「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。

第19&20回は、2026シーズンからミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いる名古屋グランパスを取り上げる。後編では、マンツーマン守備とトランジション局面に焦点を当てる。名古屋はなぜ失点を重ねるのか――その背景には、異端の指揮官が貫くマンツーマン守備の原則がある。人を捕まえ続けることで得られる優位性と、そこから生じる構造的リスクを、バルディが大胆に指摘する(本文中の数字は6月5日の取材時点)

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即時奪回か、被カウンターか。表裏一体の“ネガトラ”

――ネガティブトランジションには、このチームが構造的に抱える強みとリスクの双方が端的に表れていると言えそうです。

 「基本的な原則はゲーゲンプレッシングによる即時奪回だと思います。少なくとも、いったん敵陣まで進出した後、ボール周辺の密度が高い状況では、それを試みて成功もしていました。ただ、自陣でビルドアップしている途中にボールを失った時には、選手間の距離が開き過ぎており、効果的にプレッシャーをかけるのが難しい。個々の選手の反応自体は速いのですが、ボール周辺の密度が低いので一気に奪い返すのは難しく、逆に1人かわされて守備の帳尻が合わなくなることも少なくありません」

――第1列の2人が大きく開き、第2列も外側の2人が大外レーン付近まで開いている状態では、守るべきスペースが大き過ぎるということですね。

 「はい。ウイングバックも敵陣まで上がってしまっているので、中央だけでなくサイドにもスペースを与えてしまうことになります。そこを使われて一気に前進を許す形で、ネガティブトランジションから危険なカウンターを喫する場面が何度もありました。セレッソ戦の2失点目、広島戦での1失点目などはその典型です。性急に縦パスを狙ってそれを奪われての逆襲、ハーフスペースから中央に持ち上がろうとしたところを奪われての逆襲、といった具合です。第1列の2人と第2列中央の3人が、配置が乱れた形で背走しながらカウンターに対応しなければならないのはきつい」

――相手と同数になることも少なくない。

 「ええ。同数とは言っても、背走しながらの対応を強いられている場合は、守備側は明らかに不利です。さらに、数的不利でカウンターを喫する場面も再三ありました。ボールのラインより後方にいても、大きく広がっているためにより危険な中央のゾーンのカバーに間に合わないことが少なくないからです。特に第2列外側の2人がそうですね。結果として、多くて4人、少ない時は2、3人でのカウンター対応を強いられてしまう。ネガティブトランジションではこれが構造的な問題です」

マンツーマンで前へ出続ける。非保持局面に貫かれる原則

――非保持局面も見ていきましょう。相手のビルドアップに対しては、マンツーマンのハイプレスが基本と言っていいでしょうか。

 「はい。基本の配置は[3-4-2-1]ですが、そこからマンツーマンで強く前に出て行きます。GKへのバックパスにもプレッシャーをかけていく。その際に戻しのパスコースを切るコース取りなども含め、ハイプレスはかなりよく機能しています。強度、タイミング、持続性、いずれも高いレベルにあります。最初のプレッシャーが外されても、下がらずに前に出続けて、相手を自軍ゴールから遠いところに押し返そうとします。もし数メートル下がるとしても、それは再び1対1で襲いかかる準備をするためであり、自陣に下がってブロック守備に転じるためでは決してなかった。というよりもゾーンでブロックを形成するという概念自体がこのチームには存在していません。チームの陣容自体、こうした戦い方に適した選手が揃っているようにも見えます。

 それゆえ、非保持時の陣形も[5-4-1]になることはほとんどありません。同じ3バックでも広島は2つのラインを持つきれいな[5-4-1]を形成していましたが、名古屋はほぼ常に[3-4-2-1]、ウイングバックが下がっても[5-2-2-1]のような配置で、敵のビルドアップ第1列、さらにはGKにプレッシャーをかけ続ける。ブロックを構築して受けに回る場面は一度もなく、試合展開の中で少し損害を抑えた方がいいように思える局面ですら、一貫して振る舞いを変えませんでした。常に前に出ることを考えている。

 その全体を指揮しているのは、最終ライン中央の藤井です。彼は特徴としても姿勢としても、前に出ていく傾向が強い。リーダーシップを取って、周囲の味方たちも高く、アグレッシブに保とうとしていました。マッチアップを噛み合わせて相手に襲いかかっていく。目的はそれだけです」

――ボールにプレッシャーがかかってクローズ(ボール保持者にプレッシャーがかかっている状態)になっているうちはいいけれど、いったん外されてボールがオープンになると、そこから後手に回り始めることになりますね。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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