【バルディ分析】中盤の空洞化は欠陥か武器か。名古屋が貫く「ミシャ式」の攻撃原理
レナート・バルディのJクラブ徹底解析#19
名古屋グランパス(前編)
『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブとイタリア代表のアナリスト兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はクラブ・イタリアのマッチアナリストを務める「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。
第19&20回は、2026シーズンからミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いる名古屋グランパスを取り上げる。中盤を意図的に空洞化し、最短距離でゴールへ向かう――今季の名古屋はミシャらしい大胆な攻撃スタイルを貫いている。その一方で、ボールロストから危険なカウンターを浴びる場面も少なくない。バルディが「ミシャ式」の攻撃構造を解剖する。
なぜ「ミシャ式」は今も戦えるのか
――今回は2006年の来日以来、広島、浦和、札幌という3つのクラブで長期政権を築いたミハイロ・ペトロヴィッチ監督が今シーズンから指揮を執る名古屋グランパスを取り上げましょう。後に「ミシャ式」と呼ばれるようになったマンツーマン志向の強い[3-4-2-1]システムを1つのスタイルとして確立・定着させ、日本サッカーにとって非常に大きな影響をもたらした監督だと理解しています。
「非常に特徴的で明確なアイデンティティを持ったスタイルで、イタリアのジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督のサッカーと似た部分が少なくないように思いました。どちらもマンオリエンテッド志向が非常に強く、ピッチ上のあらゆる場所で1対1のデュエルが発生する。非常に縦志向が強く、パススピードも速く、ピッチ全体で非常の多くのデュエルを作り出し、また受け容れるチームです」
――今回分析した試合は?
「リーグ最後の2試合(セレッソ大阪戦、広島戦)とプレーオフ町田戦第1レグの3試合です。どの試合も失点が多く、結果は不本意なものでしたが、内容的にはチームのやりたいことは常に明確であり、スコアにかかわらず常にオープンに試合に向き合い、フルパワーで戦っていました。試合を諦めて気を抜くようなこともまったくなかった。自分たちが何をすべきかを知っている、生きたチームです。セレッソ戦の後半は守備が崩壊していましたが、シーズンの中にはそういう試合もある。それでも自分たちのアイデンティティは常に示していたと思います」
藤井陽也と高嶺朋樹。攻守を支える“背骨”の存在
――システムは指揮官のトレードマークである[3-4-2-1]ですね。まずメンバーからざっと見ていきましょう。
「チームの中で最も強い印象を残した選手は、3バックの中央でプレーする藤井です。非常にアグレッシブなDFで、大柄な体格にもかかわらずスピードとアジリティが高く、デュエルに非常に強い。積極的に前に出てアンティチポやインターセプトを狙うリスクを取ることを厭わない。時には不用意に見えるくらいですが、おそらく監督がそれを許容あるいは奨励しているのだろうと思われます。ラインを押し上げた後の予防的カバーリングを非常に注意深く行い、大きなスペースで守ることを怖れず、このチームがしばしば直面する被カウンター時にも相手FWにそう簡単には走り負けない。守備だけでなくビルドアップ時にもリーダー的な存在であり、戦術面だけでなく感情面においても大きなプレゼンスを感じさせる選手です」
――23歳でベルギーのコルトレイクに移籍しながら、2年目にケガでシーズンの半分を棒に振り、チームの降格もあって昨夏名古屋に戻ってきたという経緯があり、現在JリーグでプレーするCBの中ではトップレベルの1人と評価されているようです。A代表経験もありますね。
「個で対応する能力が高いので、この名古屋のようなマンツーマンの戦術には非常に合ったタイプだと思います。対人能力の高さが際立っている一方で、スペースに対する感覚はあまり磨かれていないようにも見えたので、むしろコレクティブなゾーンディフェンスの中ではやや困難を抱えるかもしれません。
もう1人、藤井とともにチームの背骨を構成しているように見えるのがボランチの高嶺です。レジスタとしてゲームを作る能力が高いだけでなく、ダイナミズムも備えている。短くつなぐパスだけでなく裏に直接送り込むロングパスの質も高く、タイミングの感覚にも優れています。強靭なフィジカルの持ち主というわけではありませんが、運動量もあって、ゲームを作れる中盤のダイナモという印象です」
――高嶺も昨シーズンは藤井と同じコルトレイクでプレーしていますね。浦和の右ウイング金子も含め、3人の日本人が所属していました。降格したのは残念でしたね。
「Jリーグの上位チームで主力としてプレーしている選手なら、ヨーロッパの中堅リーグで普通にプレーできるレベルにあるということだと思います。代表クラスでなくてもそうだというのは、日本サッカーのレベルの高さを示しているのではないでしょうか」
――今やヨーロッパのトップ10リーグで50人以上の日本人がプレーしている時代ですからね。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
