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アーセナルが示した新時代の守備戦術。“最攻”PSGを苦しめた「ヘキサゴンの罠」

2026.06.03

新・戦術リストランテ VOL.120

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第120回は、CL決勝分析。PK戦の末にパリSGの連覇で幕を閉じたが、戦術トレンドとして最も興味深かったのはアーセナルの守備戦術だったかもしれない。中央をあえて空けて誘い込み、一瞬で刈り取る「ヘキサゴン(六角形)の罠」。マンツーマン全盛時代に現れた新たな守備モデルを、PSGとの攻防から解剖する。

ヘキサゴンの罠

 CL決勝は守るアーセナル、攻めるパリSGという構造が明確な試合でした。そしてアーセナルの守備は今後の方向性を示しているのではないかと思います。

 以前、マンチェスター・シティの例で取り上げたハイブロック守備です。

 形としては[4-2-4]ですが、六角形の前方ブロックと見ることもできます。基本的な立ち位置はこんな感じでした(下図)。

 PSGはビティーニャがCBの間に入ってビルドアップを主導。通常なら、アーセナルの六角形中央の空白地帯にデンベレやドゥエが下りてきて攻撃のスイッチにするのですが、この決勝ではほとんどそういう組み立てがありませんでした。

 この試合でのアーセナルのハイブロックの機能性を整理しておきます。

・2トップ(ハバーツ、エデゴー)はカバーシャドー徹底。ボールホルダーに寄せない
・SH(サカ、トロサール)はカバーシャドーができたら寄せてプレスのスイッチとなる
・SHがスイッチを入れたらSBはジャンプしてSHの背中にいる相手にプレス
・CBはSBに連動してSBが背中に置いた相手をマーク

 ただし、②のSHがプレスのスイッチ役を担うことはほとんどありませんでした。従って③、④もほぼ発動していません。サカの右サイドにはファビアン・ルイスが下りてきていて、本来ならヌーノ・メンデスをカバーシャドーで消しつつパチョにプレスするはずが、ファビアン・ルイスもいるためにそれが難しい状況でした(下図)。

 もし、ライスが下りるファビアンを捕まえる、あるいはパチョへプレスしていれば、サカはヌーノ・メンデスを消しつつファビアンへのプレスという形を作れたはずです。しかし、ライスはポジションをキープして前進をしなかった。六角形ブロックの形を崩さなかった。これはアーセナルのハイブロックの特徴が表れていた部分です。

 六角形の維持——。機能性について4つのポイントを挙げましたが、これらはハイプレス移行を前提としたブロック守備を想定した一般論です。実際には六角形の維持が最優先されていてハイプレス移行をしていません。

 ビティーニャがいる限りハイプレスは危険だからです。もし、ライスが前進してブロックを自ら壊した場合、PSGはビティーニャを絡めて壊れた六角形の空白地帯へ前進してくるでしょう。そうなるとブロックもプレスも解除され、前向きに走るドゥエ、デンベレにパスが供給される最悪の事態になってしまう。

 ですからアーセナルはハイプレス移行を前提としておらず、六角形ブロックを維持して相手の前進を抑止する機能に絞り込んでいました。

 では、構えているだけの状態からどうやってボールを奪うつもりなのか。奪取想定場所はまさに六角形の空白地帯です。相手はここにボールを運びたい。そしてアーセナルはわざとそこを空けている。罠です。空けておいて、相手が入ってきたら前後左右で挟んで一気に奪い取る。そのためにボランチ2人が必須で、六角形を維持しなければならなかった。

 PSGは数的優位のある左からファビアンやヌーノ・メンデスが空白地帯への侵入を図り、ここに常駐していたジョアン・ネベスも受けようとしましたが、いずれもあっという間に寄せられ、または奪われています。この段階でビティーニャは罠に気づいたようで、空白地帯を回避するようになりました。デンベレ、ドゥエがここへ下りてこなかったのもそういう流れからだと思います。

奪わずに追い詰めるローブロックの圧力

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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