「ローテーション攻撃」と「かっ飛ばし戦法」って何?林舞輝が読み解く欧州サッカー最新戦術トレンド(後編)
マンツーマン守備が主流となった現代サッカーでは、攻撃もまた大きな変化を遂げている。選手たちが流動的にポジションを入れ替える「ローテーション攻撃」、マンツーマンハイプレスを逆手に取ってロングボールを積極的に活用する「かっ飛ばし戦法」、そして終わらないトランジションの応酬。林舞輝氏は、これらを現代サッカーを象徴する攻撃トレンドとして挙げる。そうした潮流は、PSGとアーセナルが激突したCL決勝にも色濃く表れていた。
ローテーション攻撃はなぜ復活したのか
――では、次に「ローテーション攻撃」と「かっ飛ばし戦法」についてお聞きしたいと思います。ローテーション攻撃とは、マンツーマンプレスに対する攻撃の発展ということでしょうか。
「デ・ゼルビ風のダブル偽9番、5バック全盛期に絶滅した純正ウインガーの大復活、中盤の3人が[1-2]になったり[2-1]になったりしながらボランチとトップ下が入れ替わり続ける中盤ローリングなどを経て、マンツーマン守備に対する攻撃として、幅と深さを取っているウイング以外のほぼすべてのポジションの選手が次々とポジションを入れ替わるようになりました。構造がハッキリしていればしているほどマンツーする側からしたら潰しやすいので、もっと動的なもの、誰と誰が相性がいい、誰に対して誰にすれば優位になれる、こことここは入れ替わり可、というようなダイナミクスを重視した形ですね。いろんな表現の仕方があるとは思いますが、『いろんなキャラの選手たちがポジショングを変えながらも全体のポジションと自らのキャラを維持する』という意味で、ローテーション攻撃という言い方を僕はしています。
もう各リーグの上位チームは、CBすら変幻自在に入れ替わっていますよね。本来、マンツーでプレスに来られるとポジションを移動している間にもうボールホルダーにプレッシャーがかかっちゃうので、ポジションを大きく移動する時間がなかったはずです。ただ、プレッシャー下でも失わない技術を持つ選手が増え、さらに先ほど話した通りの慎重派マンツープレスが増えたので、十分にポジションを入れ替わる時間が得られるようになりました」
――最近だと、プレミアリーグ第33節シティvsアーセナルでシティの両CBが開いてベルナルド・シルバとロドリの両MFがDFラインに下がるというポジション移動がそうでしたね。今後はこういったやり方が一般化していくのでしょうか?
「相手がマンツーマンである以上、ポジショナルプレーによる数的優位も位置的優位も存在しなくなるので、突き詰めるのが『質的優位』のデザインと『いかにマンツーのエラーを起きやすくさせるか』になります。結果として、『一番上手い選手に一番後方で一番ボールを触らせよう』となるのは自然な流れです。この試合、26分に最前線にいたベルナルド・シルバが最後尾まで70メートルぐらい走って降りるシーンがあるのですが、さすがにこの大移動には笑ってしまいました。決勝でも両チームのボランチがよく降りていましたね」
――しかし、そういったボランチが最後尾まで降りる「サリーダ・ラボルピアーナ」はボールを失った時(ネガティブトランジション)のリスクが高いとされ一時は滅びたはずです。ここにきてなぜ復活しているのでしょうか?
「これはマンツーマン守備の流行と密接に関連しています。あえてゾーン時代の選手で例を出しますが、例えばピルロが最終ラインのCB間の真ん中に降りたとします。ゾーンであれば、ここには相手の2トップ、シェフチェンコとドログバとしておきましょう、彼らがプレスをかけます。この時、ピルロがパスを出した後に前方で味方がボールを失い、相手が奪ったボールをすぐ中央のドログバに入れたとします。そうすると、ドログバがピルロを背負って縦パスを受けることになります。背負ったまま簡単にゴリゴリとターンされて運ばれてしまうのが容易に想像できます。もしくは、奪われた瞬間に背後にシェフチェンコが走ってピルロと『よーいドン』になったとします。目も当てられません。
しかし、マンツーとなると、こちらの降りたボランチに着くのは相手のボランチになります。たいてい一番上手い相手に一番ボールを狩れる選手をマンマークに当てますから、ピルロにくっついて行ったのをガットゥーゾとしましょう。この場合、前方で奪われてすぐに縦パスを差し込まれた場合、ピッチの中央でガットゥーゾ攻撃vsピルロ守備になります。つまり、何も起きません(笑)。
主流がマンツーマンになったことで、サリーダ・ラボルピアーナの潜在的なネガティブトランジション時のリスクが消滅しました。似たような理由で、どんなにポジションが入れ替わっても相手も入れ替わるから問題ない、だからローテーションしまくろうという流れになっています。ゾーン主流の中にマンツーマンのチームがいた時は、これは大問題でした。こっちだけがポジションが入れ替わって相手は入れ替わってないわけですから、ローテーションしすぎると奪われたらライン際でピルロがロッベンを止めなきゃいけなかった。ただ、マンツーで相手も入れ替わるならこれは起きませんからね」
「かっ飛ばし戦法」が現代サッカーの最適解になるカラクリ
――では、「かっ飛ばし戦法」はどういったものでしょうか?
「最後尾が同数でそこで事故的にも負けてしまえば一気にGKと1対1、というのはマンツーの最大の弱点です。攻撃側からすると、その最前線の同数をどう使おうという話でしたが、『そもそもその最前線の1対1をハーフウェイラインでやるより相手ペナルティエリア前でやった方が良くね』という発想で、とにかく遠くにかっ飛ばす。それに付随してGKにはもはや『つなぐ能力』より『とにかく遠くまで飛ばせる能力』の方が重要になりつつあります。後半のアーセナルはゴールキックも含めビルドアップではほぼ一辺倒にこれを狙っていて、73分、79分、83分と、連続でGKと1対1になりかけています。ちゃんと競り合っているところの前後に味方が入って行っていて、PSGからするとかなりヒヤッとしたと思います。83分のラヤのキックなんて、すごい弾道で70メートルぐらい飛んでいますからね」
――なるほど、鈴木彩艶が評価される理由もわかりますね。最後に、『トランジションの泥沼長期化』とはどういったことでしょう。
「これもマンツーマン守備の蔓延と関連しています。マンツーマンですから、先ほども話した通り、攻撃側は相手を抜けば当然、数的優位です。数的優位なので速く攻めようとします。守備側もマンツーマンでボールホルダーから奪えば数的優位です。数的優位なので奪ったら速く攻めようとします。速さと正確性は反比例しますから、速ければ速いほど失いやすくなります。数的優位な時に失えばその後ろは数的不利なので、これまたカウンターを受けやすくなります。というわけで、『カウンター→カウンターからの逆カウンター→カウンターからの逆カウンターからの逆逆カウンター』みたいなシチュエーションがマンツー下では非常に生まれやすくなります。実際には失った後プレスバックする選手もたくさんいますし、こんな単純な構図になるわけがないので、仕組みの良い説明になっているかわかりませんが、カウンターの応酬が続いてトランジションだらけになっているのはマンツー同士の試合を見れば一目瞭然だと思います」
――PSGとバイエルンの準決勝はまさに「トランジションの応酬」でした。
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Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。
