「立ち位置の時代」の終焉、マンツーの進化と限界? 林舞輝が読み解く欧州サッカー最新戦術トレンド(前編)
2025-26シーズンの欧州サッカーを象徴するキーワードは何か。林舞輝氏は「マンツーマン守備」「ローテーション攻撃&かっ飛ばし戦法」「トランジションの泥沼長期化」の3つを挙げる。ポジショナルプレー全盛の時代を経て、新たな局面に入りつつある今、CL決勝の分析に入る前に、まずは現代サッカーを支配する戦術トレンドを読み解いてもらった。
「立ち位置の優位性」はなぜ効かなくなったのか
――CL決勝分析の前に、今シーズンの欧州サッカーについての感想をお聞きしたいと思います。今シーズンの欧州サッカーをどう見られますか?
「今シーズン含め、ここ数年の欧州サッカーのトレンドとして明確にあるのが、『マンツーマン守備』『ローテーション攻撃&かっ飛ばし戦法』、そして『トランジションの泥沼長期化』だと思っています。なんかもう、立ち位置とか構造とか再現性とかないですよね。ほぼ死語になりつつあるというか、それらが通用するのはセットプレーだけじゃないでしょうか。なんかバタバタしている間に気がついたらゴールが入ったり、PKになっちゃったりする。バイエルンvsレアル・マドリーなんて再現性も構造もないというか、なんなら選手たちから『そんなものは必要ない!』という心の叫び声が聞こえてくるような試合でした(笑)」
――マンツーマン守備からお聞きしたいと思います。ポジショナルプレー対策のマンツーマンプレスが標準化され、戦術で差をつけるのが難しくなってきているように思います。そんな中で同じビッグクラブでも勝つチームと、勝てないチームを分ける差は何だと思いますか?
「相手が迷う立ち位置を取ることでチームの質的な優位性と数的な優位性の効率を最大化させましょう、がポジショナルプレーだったわけですが、それが一般常識化し、誰もがシステムの噛み合わせや立ち位置での優位性を見出せるようになりました。そして、それを打ち消す方法としてマンツーマン守備が採用されるようになるのは自然な流れです。もちろん、どこまでマンツーにするかの濃淡や、どれくらいマークの受け渡しを許容するかなどは細かい部分はチームによって異なりますが、とりあえず人にはっきりくっついていれば立ち位置での優位性、つまりポジショナルプレーは無効化されますからね。そんな一大トレンドとなったマンツーマン守備の発展で気になっているのは、『どのように既存のゾーン守備と併用するのか』ということと、『個人の振る舞いの変化』です」
マンツーマン守備の進化とゾーン守備との共存
――ゾーン守備との併用というのは、いつどこでゾーンにするか、またはどれくらい人を明確にマークするかということでしょうか。
「そうですね。今回の決勝戦の2チームで例えれば、アーセナルはミドルゾーンでは[4-4-2]または[4-2-4]で構えてから人に基準を置き、敵陣でのハイプレスになるとマンツーマンになります。このやり方だと、ゾーンからマンツーに移行する時にヒューマンエラー、構造的な弱点というより、人為的なミスが発生しやすくなります」
――相手の1人の選手に2人がつきに行っちゃったり、自分のマークを見つける前にボールが出てきてしまって、フリーな選手ができてしまい、一気に運ばれるってやつですね。
「アーセナルのプレミアリーグ第34節のシティ戦での2失点目はまさにこの形で、オライリーがフリーになって30mぐらい運ばれました。CL準決勝アトレティコ戦の第1レグの61分に長い時間持たれて最終的にグリーズマンにバー直撃のシュートを打たれたシーンもそうでした。この準決勝では、同じように敵陣ハイプレスではマンツーマンを採用しているアトレティコにも、同じようなエラーが何度かありました。
マンツーからゾーンに移行するのはただ決まった場所に戻るだけなのでエラーは起きませんが、ゾーンからマンツーの移行ではその時々で相手の場所は違うので、どうしてもエラーが起きやすくなってしまいます。ただ、アーセナルの場合は試合や状況によってそもそも『ハイプレスに行かない』という選択肢を持っています。決勝ではマンツーマンのハイプレスは封印しました。アトレティコもそうですね。相手や時間帯などの状況によってリスクとリターンを天秤にかけ、マンツーマンのハイプレス敢行するかどうかを決めています」
5人交代制とVARが後押ししたマンツーマン時代
――もう一方のCL準決勝、パリSG対バイエルンは両チームほぼオールコートマンツーマンで、マンツーマン対決の極北のような試合でしたね。
「ゾーンからマンツーへの移行でのヒューマンエラーをなくすという意味では、『いっそ全部マンツーにしちゃえばそんなエラーは起きないじゃん?』というのは、1つの論理的な回答ではあると思います。特にこの2つのチームは、『ハイプレスに行かない』という選択肢はないですからね」
――90分間マンツーマンをやり続けるのは一般的に不可能だと思われていました。70分ぐらいでガス欠が起きる。やはりコンディショニングやメディカル面の進歩、GPSなどのテクノロジーがそれを可能にさせたのでしょうか?
「もちろんそういったスポーツ科学の発展は欠かせない要素だと思います。それに加えて、5人交代とVARも大きいと思います。フィールドプレーヤーが半分交代できるようになったこと、そしてVARで試合中に『間』が生まれたことで、完全マンツーが現実的に可能になりました。VARは僕も10分弱の中断を経験したことがありますし、どの試合でもVARチェックで数分間のストップがほぼ必ずあります。このVARでの中断時間をなるべく減らしていこうという傾向にはなっていますが、VAR以前はGKの負傷でしかこんな中断なかったですからね。極端なたとえにはなりますが、スプリントを休憩なしで10本連続で走るより、3本走って1分休憩を4セットで計12本走る方が、楽だし速度も出せるのは感覚的にわかると思います。『唯一の戦術本はルールブックだ』とは言われますが、『交代』『イエローカードとレッドカード』『GKへのバックパス禁止』『ゴールキック時にGK以外の味方もエリア内に入ってもいい』などのルール変更がサッカーの戦術史を大きく変革してきたように、5人交代制とVARがマンツーマン主流の時代の到来を早めたと思います」
“オールコートマンツー”の必然と限界
――では、CL準決勝PSG対バイエルンのようなサッカーが現代サッカーの1つの解答になるのでしょうか?
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Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。
