合理的すぎるアルテタ・アーセナルの課題は「ファン・ハール化」。反対にシティは“付け焼刃”が強みになる?
新・戦術リストランテ VOL.92
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第92回は、プレミアリーグで頭一つ抜け出しつつあるアーセナルに感じた「ファン・ハール化」という懸念と、対照的な2位ペップ・シティの“付け焼刃”という強みについて考えてみたい。
プレミアに小異変
プレミアリーグ第11節、アーセナルがサンダーランドと引き分けて連勝は5試合でストップ。公式戦も10連勝で止まりました。一方、マンチェスター・シティはリバプールに勝利して連勝。首位アーセナルに4ポイント差の2位につけています。
シティに敗れたリバプールは何と8位、マンチェスター・ユナイテッドが7位に浮上しました。これでトップ3はアーセナル、シティ、チェルシー。4位サンダーランド、5位スパーズ。一時好調だったボーンマスも気がつけば9位に後退しています。
ちょっと風が吹いてきた感じがします。
サンダーランドとのアウェイ戦を2-2と引き分けたアーセナルは先制されながら後半に1-2と逆転しましたが、ロスタイムに追いつかれました。前半がもったいなかったですね。勝ちパターンが確立しているアーセナルですが、若干硬直性が感じられます。
シティは「戦術ホーランド」ではなく、「戦術ドク」でリバプールに3-0。グアルディオラ監督1000試合目、ドク100試合。この日のドクは手がつけられない好調さでした。
「勝てるはずのプレー」をしているので、変える必要がない
10試合で3失点しかしていなかったアーセナルがサンダーランドに2失点。ただ、失点自体はゴール前の力業的な形で、事故とは言わないまでもそれに近いものなので仕方ないかなと思います。気になったのは前半の硬直性です。
アーセナルの失点が極端に少ないのはCBコンビのサリバ、ガブリエウの固さもありますが、何といっても守備の構造を攻撃時に作っているところにあります。
丁寧なビルドアップで押し込み、相手ゴールを包囲するように攻め込む。その際、パスワークは相手守備ブロックの外を回していきます。
安全な運び方。サカ、トロサール(あるいはマルティネッリ)のウイングが強力。ティンバーとカラフィオーリのSBがサポートしてのサイド攻撃に威力がある。同時にボールを失っても敵陣深くのサイドなら即時のハイプレスが有効です。サイド攻撃が強いので失うのは大体相手ゴール前ですから、クリアボールを回収して攻撃継続になります。たまにプレスを外されてカウンターになっても、サリバとガブリエウが迎撃。
相手に攻撃させず、自分たちだけが一方的に攻撃を加える。言い方があれですけど、相手の手足を縛った状態で戦えているので強いわけです。
しかし、常に優位なチームが勝てるとは限らないのがサッカー。サンダーランドはGKからのロングボールをヘディングの連続でシュートへ持っていって36分に先制します。
ほぼ負ける心配のないプレーをしていたアーセナルがリードされた。しかし、アーセナルのプレーぶりは変わりませんでした。「勝てるはずのプレー」をしているので、変える必要がないからでしょう。そのまま前半を終了しています。
ファン・ハール監督のチームを思い出しました。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
