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冨安健洋と中島翔哉。日本屈指の2つの才能に見る「モダン」の意味

2019.11.14

現代戦術から読み解く日本のトッププレーヤーたち

これまでは、サッカーの歴史を作り上げてきたレジェンドたちの凄みを日々アップデートされる現代戦術の観点から読み解いてきたこのコーナー。

今回は番外編として、現在の日本のトッププレーヤーたちにフォーカス。月刊フットボリスタ第74号でも特集した「モダンCB」として大きな期待を背負う冨安健洋と、図抜けたスキルとイマジネーションで攻撃を彩る中島翔哉の「スペシャリティ」に焦点を当てよう。

“モダン”な冨安健洋

「ユース年代の若手を指導する時には、10年先を見なければならない」

 これはユーゴスラビアサッカー界の大立者ミリヤン・ミリヤニッチの言葉である。例えば、15歳の選手が25歳になった時にサッカーがどう変化しているかを考えて指導しなさいということだ。その時は十分だと思っても、10年後にはそれでは時代から取り残されるかもしれない。10年先を正確に予測することはサッカーに限らず至難の業だろう。ただ、およその方向性は見えているものだ。

 それぞれのポジションには役割があり、それぞれのスペシャルな能力が要求される。ストライカーには得点能力が必要で、CBには空中戦の強さが問われる。一方で、ストライカーにはますます守備力が、CBには攻撃力が求められている。スペシャリストであることを前提に、オールラウンドな能力が求められているわけだ。そして、この傾向はサッカーが競技として始まったころからほぼ変わらない。

 10年先のサッカーがどうなるのかはともかく、選手固有の才能にオールラウンドな能力をどれだけ加えられるかが重要だということはすでにわかっている。

 冨安健洋は10年に1人の人材だろう。井原正巳が登場した時とよく似ている。

 井原は高校時代FWだったが、やがてDFとしてプレーするようになって脚光を浴びた。背が高くパワーに恵まれていて、読みが鋭くスピードもあった。当時のDFとしてはボール扱いも巧かった。この選手なら、どのチームでプレーしても中心になるだろうと思えるほど飛び抜けていた。筑波大学を卒業して日産自動車に加入した井原は、当初MFで起用されている。ボールを刈り取る能力を中盤で使いたかったのだろう。その後は本職のCBとして横浜マリノス(当時)の看板選手になった。

 冨安もMFとしてプレーしている。アビスパ福岡、さらに2019年アジアカップでも初戦はボランチだった。CBの方が向いているとは思うが、MFとしてもプレーできるのは井原と同じ。2人ともハイブリッドなのだ。

 ボローニャでの冨安は右SBでもプレーしている。守備者としての強さ、高さ、速さに加えて、ボールタッチに優れていて長短のパスを正確に配球できる。MFもこなせるだけのスタミナもある。DFとしてのスペシャルな能力に抜きんでていて、さらにMFができるオールラウンド性を備えている。

 現代サッカーにおいて、CBのビルドアップ能力はますます重要になっている。相手からさほどプレッシャーを受けず、意図的に攻撃を構築できる唯一のポジションだからだ。CBの試合を読む力、攻撃の方向性を決めるセンスは、大きな影響力を持つようになった。守備能力だけが優れていても、現代のゲームに要求されているCBの役割はまっとうできない。井原、冨安は従来のDFの規格をはみ出すほどの能力が、後にDFとして要求される役割にちょうどのタイミングでフィットした。

“スペシャル”な中島翔哉

 モダンなプレーヤーは重宝される。時代の要請に合わせた資質の持ち主だからだが、モダンだからといって優れているとは限らない。モダンであるという資質そのものは、適応力があるということに過ぎない。

 第一にはスペシャルな能力である。例えば、守備での貢献度が抜群のFWがいたとして、彼がシーズンに1ゴールも取れなかったとしたらどうだろう。ビルドアップ能力抜群のCBだが、空中戦にからきし弱いうえ1対1でも抜かれてばかりでは話にならない。まずは専門的な能力があり、そのうえに他の分野での貢献が求められている。

 重要なのはスペシャリティであり、そこが突出していればモダンでなくても実はかまわないのだ。

 最もわかりやすいのはリオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドの例だろう。彼らは守備を求められていない。攻撃力、得点力が格別なので、守備で消耗させることをチームとして求めていないのだ。2人とも守れない選手ではないが、チームが守らせたくない。攻撃場面では常に敵ゴールの近くにいてほしいから、よほどのことがない限り自陣から最も遠い位置で守らせる。メッシ、ロナウドを擁するチームはモダンにはならず、システムも歪になる。それでも彼らの特殊能力を活用した方が勝てるからそうしている。

 中島翔哉はスペシャルなアタッカーだが、あまりモダンではない。

 日本人選手の中では最もクリエイティブで攻撃力に秀でている。半面、守備力は高くない。というより、守れる場所そのものにいないことが多い。中島は深く下がって味方のDFからボールを預かり、そこからドリブルで仕掛け、パスを散らし、さらに敵ゴールへ迫っていくプレーをしばしば見せる。これができるのは中島だけだ。ただ、左サイドMFのポジションからは逸脱している。決まったエリアにとどまらないがゆえに威力もあるのだが、守備に切り替わった時に中島はしばしば自分のポジションに戻れない。

 中島の起用方法としては3つ考えられる。

1.左サイドにプレーエリアを制限し、そこでの攻守の責任を持たせる

2.中島のプレースタイルを尊重し、守備面でカバーできるシステムをチームで用意する

3.先発起用を避け、スーパーサブとして時間限定で起用する

 3つの起用法で現実的なのは1番目のエリア限定策だろう。ただ、バルセロナが100%のメッシを必要とするように、中島のチームが彼の攻撃力を最大限生かす必要があるなら、限定策はベストではない。また、守備が得意とは言えない中島に左サイドを任せる不安もある。

 中島に自由を与えて攻撃力をフル活用する2番目の策は、メッシやロナウドの使い方と同じだ。中島の守備を補完できる選手とシステム、攻撃をサポートできる人材を用意する、いわば中島システム。当然、中島が抑えられたらチームは窮地に陥る。そこまでチームが個人に頼らなければならないかどうかで採用するかどうかが決まってくる。3つめは、そこまで中島に依存する必要がない場合。 ポルトは現状これだろう。

 メッシやロナウドを持ったチームはモダンにはなり切れない。だが、メッシやロナウドのいないモダンなチームより強い。中島もモダンではないが、日本人選手の中では格段にスペシャルだ。例えば、南野拓実は守備もしっかりこなせるモダンなアタッカーなので、ヨーロッパの中では居場所を見つけやすいはずだ。だが、中島のスキルと創造性には及ばない。久保健英はまだどちらに行くかわからないが、中島のような枠をはみ出すタイプではないように見える。

 規格外でモダンではない選手は、適応力に欠けるので居場所を失いやすい。ただし、ジネディーヌ・ジダンやファン・ロマン・リケルメは、ボールを持った時だけ素晴らしいクラシックなプレーメイカーだったが、その周回遅れとも言える古さによって最先端の守備戦術だったプレッシングの破壊者として希少価値を持った。本人の能力の大きさ、チームや時代との相性にもよる。メッシ、ロナウドになると適応力に関係なく、チームが居場所を用意する。

 ともあれ、モダンであろうとなかろうと素晴らしい選手は素晴らしい。中島をどう扱うかはそれぞれのチーム事情であり、ある意味悩みの種かもしれないが、中島のプレーが魅力的なのは変わらない。ボールを持てば常に有利、窮地をも打開できる技術とアイディアを持ち、何より自由奔放なプレーにはサッカーの面白さにあふれている。

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高さ、強さ、速さに加え足下の技術を兼ね備える現代型CB冨安健洋と、鋭いドリブルやスルーパスにシュートでゴールシーンを演出する中島翔哉。日本を牽引する2人をはじめとした総勢11人の日本人選手が、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場!

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Photos: Getty Images

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中島翔哉冨安健洋戦術

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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