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経済危機下の「外貨獲得」手段 アルゼンチンの10代マーケット事情

2019.11.01

 2年前に1部リーグが「スーペルリーガ」として生まれ変わった時から、アルゼンチンではそれまで極端なほど緩慢だった各クラブの運営管理が厳格なものとなった。スーペルリーガ、AFA(アルゼンチンサッカー協会)、そしてFAA(アルゼンチンサッカー選手組合)が定めた規定により、給与の滞納や赤字決算が発覚した場合は新たな戦力の補強が不可能となったため、どのクラブも無謀な選手の買取はできず、必然的に下部組織出身の選手を積極的に起用しなければならない状況にある。本来はこれが理想形だが、アルゼンチンは相変わらず通貨が不安定な国。去る8月初旬にも、大統領予備選挙で与党が大敗するや、週末を挟んで対ドルレートが一気に25%も下落した。

 そんなアルゼンチンで海外移籍が「外貨による収入を得る機会」であることは説明するまでもなく、経済的な好条件を求めて選手たちが母国を去るのは当然の結果。10代の若手を引き止めたままにしておくことはますます至難の業となっている。今年1月にはボカ・ジュニオール出身で当時19歳のDFレオナルド・バレルディが、トップチームで5試合に出場しただけでドルトムントに移籍したことが話題となった。しかも移籍金は1500万ユーロ(約18億円)と、プロデビューして間もない19歳のDFとしては破格の額。U–20アルゼンチン代表のメンバーでもあり、下部組織でも将来有望と太鼓判を押されていただけにボカにとっては戦力的に大きな損失だが、今後連帯貢献金による収入も十分見込まれるため、ビジネス的には大成功だったと言える。

 また、同じ時期にアルヘンティノスから850万ユーロ(約10億円)でイングランドのブライトンに移籍し、半年後にレンタルでボカにやって来てアルゼンチン代表入りを果たした20歳のMFアレクシス・マカリステルのように、いったん欧州の中堅クラブに移籍してから母国の強豪でプレーすることによって市場価値をさらに高めるケースも。最近はアメリカのMLSも若手の移籍先のオプションとなっており、すでにバンフィル所属の19歳のFWフリアン・カランサが12月からインテル・マイアミに移籍することが決まっている。アルゼンチンの経済情勢を考慮した場合、才能の流出を止めることは今後さらに困難となるだろう。

Photo: Getty Images

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Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

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