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もう“最速の男”ではない スタリッジはスキルで生き残る

2019.05.29

リバプールのダニエル・スタリッジ

“ハングリー精神は決して変わることはない。僕は毎日ポジティブな気持ちでいる”

Daniel STURRIDGE
ダニエル・スタリッジ
FW15|リバプール
1989.9.1(29歳) ENGLAND

 スタリッジのキャリアハイは、29試合21ゴールをマークした2013-14シーズンだ。プレミアリーグのトラッキングデータを基にした『スカイスポーツ』の記事によれば、その13-14に彼がピッチで記録したスプリントの最高速度は「32.4km/h」で、チーム最速をマークした試合が8試合もあった。リバプールに来て最初の頃のスタリッジは、自慢のクイックネスで相手の裏を取って抜け出すプレーが身上だった。ところが、ハムストリング、太腿、ふくらはぎ、鼠蹊(そけい)部、足首、膝、臀(でん)部とたび重なるケガに苦しむことになる翌2014-15以降は最高速度が急低下し、2016-17は「28.5km/h」まで下落。“チーム最速の男”になることもめっきりなくなった。

 特に多いのが筋肉系のトラブルだが、元チェルシーのドクターだったスポーツ医学の専門家、ラルフ・ロジャーズ氏によれば、「筋肉が一度裂けてしまうと再発しやすくなる。特にスピードが武器で、爆発的な加速をするスプリンター型のアスリートにありがちな症状」だという。また筋肉系のケガを繰り返すと「筋肉全体の強度が変わったりバランスが不均衡になったりするため、同じ箇所に限らず他の箇所も負傷しやすくなる」。つまり、彼の言葉を借りれば「生物力学的に言えば違う選手」になってしまうのだ。これは往年のマイケル・オーウェンと似た状況で、彼も「ハムストリングのケガでプレースタイルを完全に変えた。自由なプレーから、“ボックス限定のプレデター”にならざるを得なかった」と自身のキャリアを振り返るが、スタリッジもまさにこれに当てはまる。スタリッジは、スピードや加速に頼った“裏抜け”を狙うプレースタイルを諦めざるを得なかったのだ。

 正直、前からハイテンポでプレッシングし、ボールを奪ってショートカウンターを狙うクロップ監督のスタイルには、フルフィットで90分間スプリントを繰り返すことが必須だ。残念ながら、スタリッジにそれをさせるのはリスクが大き過ぎる。だから彼はレギュラーになれない。だが、彼にはスピード以外にも武器がある。それは左足を駆使した「人を食ったようなテクニック」(グレアム・スーネス談)や一撃必殺のシュート力で、クロップも「フットボールは頭じゃなく足でするもの。だから、走って、スペースを埋めることもやらなければいけないが、高いインテンシティがすべてじゃない。私はスタリッジに走り回ってほしいんじゃなく、彼のスキルを活用したい」と語り、彼の存在意義は認めている。

 スタリッジ自身も、もうかつての自分には戻れないことを受け入れ、別のスタイルで生き残りを目指す決意が固まりつつあるように見える。ホウレンソウやケールキャベツなどの蒸し野菜や、魚類や亜麻仁油などに多く含まれるオメガ3脂肪酸(筋肉の柔軟性が増し、炎症を抑える効果がある)を主に摂取する厳格な食事制限を行ってケガの防止に努めた今季はプレシーズンから状態は非常に良く、負傷離脱もない。出場機会こそ限られているが、「スーパーサブ」の立場を受け入れ、数少ないピッチに立った時間の中で結果を出し、リバプールのタイトル獲得に貢献することに集中している。

ゴールを決めて喜ぶダニエル・スタリッジ
昨年9月のカラバオカップ3回戦(写真)、続くプレミア第7節のチェルシー2連戦で連発後、ゴールからは遠ざかっているスタリッジ。6月1日のCL決勝で9カ月ぶりの一撃が見られるか

Photos: Getty Images

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ダニエル・スタリッジリバプール

Profile

寺沢 薫

1984年生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、2006年からスポーツコメンテイター西岡明彦が代表を務めるスポーツメディア専門集団『フットメディア』に所属。編集、翻訳をメインに『スポーツナビ』や『footballista』『Number』など各媒体に寄稿するかたわら、『J SPORTS』のプレミアリーグ中継製作にも携わった。