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アーノルドと比肩する北アイルランド人の登場。「クロップ・リバプール2.0」の先頭を走るコナー・ブラッドリーとは何者か

2024.03.05

トレント・アレクサンダー・アーノルドをはじめ主力の負傷に悩まされているリバプールだが、アカデミー出身の若手がチームを盛り上げ、リーグカップ決勝ではチェルシーを下して今季1つ目のタイトルを獲得した。中でも1月にトップチームデビューを飾ったコナー・ブラッドリーは一際大きな輝きを放っており、アーノルド不在の穴を埋めている。本稿では北アイルランドの新星がどのような経緯でリバプールに加わり、頭角を現したのかを『リバプールFCラボ』で活動中のゆーりさんに伝えてもらった。

 「とても誇らしい瞬間で、長い間夢見ていたことなんだ。夢の中にいるような気分だ。信じられないよ」

 クラブに輝かしい栄光と唯一無二のレガシーを残したユルゲン・クロップが退任を発表した直後のアンフィールドでのチェルシー戦(1月31日)。チームの副キャプテンで、右SBの絶対的主力であるトレント・アレクサンダー・アーノルドに代わって先発したのが弱冠20歳のコナー・ブラッドリーだ。果敢なボール奪取の流れからディオゴ・ジョタの先制点をアシストすると、前半終盤には右サイドを駆け上がってゴールを挙げ、後半には絶妙なクロスでドミニク・ソボスライの得点をお膳立て。北アイルランド出身の選手がリバプールで得点を記録したのは1954年以来、なんと70年ぶりの快挙であった。チェルシー戦の大活躍をはじめ、2024年に入ってからの11試合で1ゴール5アシストをマーク。5歳から憧れ続けたアンフィールドの夢舞台で躍動したブラッドリーは瞬く間に世界にその名をとどろかせた。

 しかし数日後、人生の絶頂期を過ごしていたブラッドリーに最大の悲劇が訪れる。長く闘病生活を送っていた父親のジョー・ブラッドリーが逝去したのだ。ブラッドリーの両親は長年にわたって自動車販売店を経営し、地元のサッカークラブであるセント・パトリックスFCのスポンサーを務めていた。ブラッドリー自身も父親の存在がサッカーを始める契機となり、幼少期はセント・パトリックFCのアカデミーで研さんを積んだ。人生に多大な影響を与えてきた父親の死を受け、ブラッドリーが悲しみに暮れたのは想像に難くない。

 それでもブラッドリーは歩みを止めなかった。約2週間の休養を経た後のブレントフォード戦で再びスタメンに名を連ねると、その後も毎試合好パフォーマンスを披露。プレミアリーグデビューから2カ月でチームの主力の座を確立した。さらには昨季のボルトン時代に続いて2年連続でウェンブリーの舞台に立ち、今季1つ目のタイトル獲得となったリーグカップ優勝にも貢献。たった数日の間に人生の山と谷を経験した。アカデミー出身の若者が活躍し、プレミアリーグで優勝争いを繰り広げる「クロップ・リバプール2.0」の象徴こそがブラッドリーなのだ。

キャリアを変えた2度の転機。心のクラブ加入から、トップチーム昇格まで

 物心がついた頃からサッカーを始めたブラッドリーだが、生まれ育った北アイルランドはラグビーやホッケー、クリケットが盛んであり、イングランドや他のヨーロッパ強豪国と比較してサッカーの練習環境が整っているわけではなかった。ブラッドリーもサッカーだけに専念するのではなく、ゲーリックフットボール(ラグビーに似たアイルランドの国技)やラグビーなど様々なスポーツに熱中する幼少期を過ごした。特にゲーリックフットボールでは強豪チームに所属し、北アイルランド国内の全国大会で好成績を収めている。

 そんなブラッドリーに転機が訪れたのは2016年4月。当時所属していたダンガノン・スウィフツFCアカデミーのドイツ遠征とスペイン遠征で大会最優秀選手に選ばれるほどの目覚ましい活躍を見せ、12歳で一躍ヨーロッパのビッグクラブがこぞって注目する次世代スター候補生となった。その後もクラブや北アイルランド世代別代表で順調な成長を遂げる才能をトップクラブが見過ごすわけがなく、リバプール、サウサンプトン、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシーの4クラブはブラッドリーと家族をクラブ施設に招待し、具体的なオファーを提示するなど獲得に全力を尽くした。しかし、それでもブラッドリーの心は揺らがなかった。新天地には幼少期から憧れ続けたマージーサイドの心のクラブを選んだ。……

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コナー・ブラッドリートレント・アレクサンダー・アーノルドリバプール

Profile

ゆーり

千葉県出身。都内の大学に通う現役大学生。幼少期の欧州選手権でフェルナンド・トーレスに魅了されたのがキッカケでリバプールを追いかけるように。アカデミー部門にも強い関心を持つ。NBAやF1など多趣味。LFCラボにも執筆中。

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