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海外日本人選手に信頼されるパーソナルフィジオ・桑原秀和が語るオランダの理学療法の長所と短所、そしてチームフィジオの役割

2024.01.10

サッカー選手を夢見た少年は、やがて選手たちをサポートする仕事に就くことに目標を変え、理学療法士養成学校に進んだ。社会に出てから2年間、IT企業の営業やフィットネスクラブなどで働いて溜まったのはたった30万円。これを元手に桑原秀和は2014年にオランダへ飛び立った。

渡欧後はアマチュアサッカークラブのフィジオを皮切りに、オランダ柔道代表、STVV(ベルギー)といったチームフィジオ、鈴木優磨(当時STVV、現鹿島)、三竿健斗(ルーバン)、町田浩樹(ユニオン)などのパーソナルフィジオを務めるなど、欧州で10年間、着実にキャリアを重ねてきた。

そんな桑原にチームフィジオとパーソナルトレーナーの違い、この職種におけるオランダと日本の違いなどを解説してもらった。

解剖学的なオランダ、包括的な日本


――オランダの理学療法の特徴を教えてください。

 「オランダ人はシステム作りがうまい。サッカーだとアヤックス、フェイエノールト、PSVを頂点にしたピラミッドがあります。理学療法士業界もそれと同じでまずは養成校を作って、その上にマスターコースを設けたりしてピラミッドにします。

 しかし、オランダのやり方にハマらないこともあります。それは患者さんが複合的な原因を持つケース。例えば肩が痛くても、原因が腰とか他の箇所にある場合、なかなか治らないことがあります。オランダでは科学的根拠のもとにシステムを作っているので、解剖学的に肩の痛みの原因を肩で探すことが多い。しかし、体全体を見ないといけないケースもあって、そういう人はなかなか治らない。個人的には『もう少し幅広く見れば治るのに』と思うことはあります」

インタビューに応えてくれた桑原フィジオ(Photo: Toru Nakata)


――桑原さんの治療法の特徴は?

 「僕はよりホリスティック(包括)的に体を見ます。どちらかというと東洋的な思想が強いかもしれません。肩の痛みの原因を探すには、全部の関節・筋肉・神経・内蔵や、その人の心理、生活習慣も含めて見ていかないと難しい。そこを見ることができるのが自分の強みです。 

 食事の改善、メンタルの向上、一般的なエクササイズをしっかり指導して、サッカー選手というよりナチュナルな人間の体の使い方に戻すことができるのも、僕のストロングかもしれません。スクワットなど、基本的なエクササイズができてない一流サッカー選手は意外と多いんです。

 現代的な生活では、外側の筋肉(肩や腿の外側)を使う傾向にあり、体の中心の筋肉は意識しないと使えない。外側の筋肉は、ぶつかった時に最初に当たる筋肉。つまり外部から守る筋肉で強い。しかし体の中心に近い筋肉はどちらかというと弱い筋肉。科学的ではないですが、筋肉とメンタルは繋がっており、芯の筋肉が強い選手は芯が強く、何を言われてもブレない傾向があると思います」


――桑原さんは19-20シーズン、STVVのチームフィジオでした。

 「やりがいがありました。今なら『個ではなくチームとして働くことが大事だ』というのがわかります。しかし当時は自分の我が強すぎて、チームフィジオのトップとぶつかってしまいました。

 選手が足首を負傷したとします。普通だと足首の治療・トレーニングをします。STVVのフィジオもそうでした。しかし僕の場合は体幹トレーニングや股関節をしっかり使えるようにすることで、より早く足首のケガを治そうとしました。そういうことをしていると、チームフィジオのトップは『なんで足首のケガを治すのに股関節のエクササイズを選手にやらせているんだ!?あいつは勝手なことをしている』と僕のことを思いますよね。チームで働くということは、自分の思想と違っていても、トップの指示に従わないといけない。当時の僕はそこに折り合いをつけることができませんでした」

パーソナルトレーナーとチームフィジオの違い


――STVVを辞めた桑原さんですがSTVVのエースストライカーだった鈴木優磨選手のパーソナルトレーナーに就きました。
……

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桑原秀和

Profile

中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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