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一貫していた成果と課題が持つ意味とは。“集大成”五輪代表の総括と、日本サッカーのさらなる進化へ向けた提言

2021.08.08

山口遼の東京五輪U-24日本代表総括

1968年メキシコ五輪以来となるメダル獲得を目指したサッカーU-24日本代表は、3位決定戦でメキシコに敗れ惜しくも4位に終わった。母国開催の大舞台に向け、総力を結集しながら悲に手が届かなかった今大会のチーム自体の成果と課題に加え、そこから見えてきた日本サッカー全体の現状とここからさらに進歩するために必要なことについて、山口遼さんが総括する。

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 U-24日本代表が挑んだ東京五輪は、準決勝で惜しくもスペイン代表に敗れ、さらに3位決定戦でメキシコに完敗したことで最終的には4位という結果に終わった。今回の日本は、これまで日本が挑んできた国際大会とは少し立場が異なったように思う。これまでの日本は「チャレンジャー」でしかなく、個のクオリティは相手の方が勝る(特に強豪国相手の場合)のが前提の中で戦うことがほとんどだった。しかし今大会は、クオリティは明らかに大会参加チームの中でも上位に位置していたし、「本気で能動的にメダルを取りに行く」という目標も現実味を帯びていた。

 それだけでも飛躍的な進歩を遂げたように思える日本サッカーだが、このオリンピックで行われた試合の数々を見ていると、感想は見る人によって2つに分かれるのではないだろうか。1つの立場としては、日本のサッカーは飛躍的に成長し、国際大会で通用するまでに至ったというもの。実際、個のクオリティは本当に高かった。これほどまでに「質的優位」で勝負できると感じさせる代表チームはこれまでになかった。しかし一方で、日本サッカーは相変わらずの課題を露呈していたというもう1つのマジョリティも存在するだろう。すなわち、今大会もやはり日本は悪い意味で日本らしさが出てしまっていて、「日本サッカーはやはり今回も通用しなかった」と考える立場だ。

 実際私も、その両方の感情を胸の中に抱いている。日本代表がこんなにも「強い」と感じる時代が来たんだなという気持ちと、一方でやはりモヤモヤする気持ちが同居していて奇妙な感じがする。

 では結局、少なくとも今回の日本の戦いから判断した時、今回の代表の歩みは、そしてここまでの日本サッカーの軌跡は、果たして正しかったのだろうか。あるいは間違っていたのだろうか。

 これこそが国家レベル、日本サッカー界全体として非常に重要な位置付けで臨んだ東京五輪を終えた振り返りとして検証しなければならないことなのだろうが、いきなり結論を出すのは難しい。そこでまずは、日本が今大会で見せた成果と課題の両面をあらためて振り返り、これまでグループステージの試合を検証してきたのと同じように、決勝トーナメントも含めてどのような現象が起きていたのかについて客観的に分析することがスタート地点になるはずだ。その上で、東京五輪の結果およびプロセスから見えてくる日本サッカーの現在地について検討し、最後に日本サッカーをシステムの一部と捉えて、ポスト東京五輪として見据える未来について少しだけ考えてみたい。

今大会の成果と課題

 ここまで、最終強化試合のスペイン戦から3位決定戦まで、計7試合を観戦し、分析してきた。短期間ではあったが、これだけ試合の密度が濃いと成果や課題ははっきりと出るものだ。実際、ここで挙げる成果や課題はこれまでのレビューや解説でも繰り返し現象として指摘してきたものばかりである。そこで、今大会を通じて得られた成果と課題についてあらためてまとめ、今大会の振り返りとしたいと思う。

<成果>

 成果については、ここまで本当に繰り返し述べてきたことであり、逆に言えば今大会を通して強みの部分は非常によく通用していたと言える。

①[4-4-2]のゾーンDFによるミドルプレス→ハイプレス

 [4-4-2]によるミドルプレス、およびそこからのハイプレスへの移行は今大会の日本の戦術の軸であり、最も相手に脅威を与えていた。これは、森保一監督が就任して歴代の日本代表のカラーから最も変化した部分だ。

 これまでの日本代表は、良くも悪くも「サッカーがうまい人たちの集団」という感じであり、守備よりも攻撃、現実的な手段よりも理想を追求という姿勢が見られた。しかし、森保監督はサンフレッチェ広島を3度のJリーグ制覇に導いた時から、非常にリアリストな印象が強い監督だ。広島時代も、前任者のミハイロ・ペトロヴィッチの監督の指導で美しく磨き上がった攻撃力は尊重しつつも、攻撃に偏り過ぎた攻守のバランスを調整し、娯楽性を多少損なっても勝利という結果を得ることに強いこだわりを見せていた。

 森保監督のリアリスティックなカラーは日本代表監督に就任してからも健在で、ともすれば理想主義的な方向性に傾きがちだった日本代表のネジを締め直し、ソリッドなチームへと作り替えた。強豪相手には守備からゲームプランを立てるというのは、いわゆる“中堅国”、“中堅クラブ”にとっては必須のマインドセットなわけだが、日本に欠けていたそれを当たり前のように文化として溶け込ませてしまったのはさすがの手腕と言える。

 戦略的な話のみならず、森保監督が構築した[4-4-2]のゾーンDFは戦術的、手法的な側面でも頷ける部分が多い。日本の[4-4-2]のゾーンDFが最も効力を発揮するのは、ミドルサードの浅い位置にブロックを敷いた状態から、相手のバックパスなどをスイッチにハイプレスへと移行する局面だ。

特徴としては、

  • ●ファーストDFがボールに向かって直線的にプレスをかけること
  • ●中盤のライン(特にボランチ)が高い位置までプレスに参加できていること

といったものが挙げられる。

 まず、ファーストDFによってボールホルダーのスペースと選択肢に制限をかけることは、能動的な守備を行う上での必須条件だ。ファーストDFが決まらない場合は当然として、ファーストDF自体は決まっていてもその制限が十分でない場合には、ゾーンDFの原則としてDFラインはその位置を下げざるを得ないからだ。そうなると、深い位置にブロックを敷く受動的な守備か、あるいはライン間をコンパクトにできないスカスカの守備組織かのどちらかになってしまう。

 その点、森保監督は才能豊かな前線の選手にも守備のハードワークを要求し、特にプレッシングの際のファーストDFとしては模範的なかけ方をする。中央のコースを背中で消しながら、ボールホルダーに向かって直線的に圧をかけることで、ボールホルダーはスペースと選択肢が強く制限されたと感じることになる。よく日本で言われる“誘導”する守備は、ボールホルダーとの距離を詰める速度が遅く、過剰に1つの選択肢を切りながら寄せるため、スペースも選択肢も実際にはほとんど制限されないのだが、このチームのプレッシングのかけ方はそのような“伝統的な守備の仕方”とは一線を画していた。

 また、ファーストDFの制限があった上で、もう1つゾーンDFを機能させるのに必須なのがDFラインによるラインコントロールだ。これは、オフサイドルールを活用して相手が利用可能なスペースを減少させることができるからだ。日本のゾーンDFの特徴の2つ目に、中盤のラインが高い位置で守備に参加できていると述べたが、これはDFラインがラインコントロールをこまめに行い、守備組織全体をコンパクトに圧縮できているからこそである。

 その上で、ボランチが高い位置をキープして守備を行うのは[4-4-2]というフォーメーションでハイプレスをかけようと思った場合、必須である。日本は、相手がアンカーを配置する場合は[4-2-3-1]気味の配置も採用するものの、守備のネットワーク的には[4-4-2]の3ラインでの守備が基本になる。その時、3ラインの守備ではFWのライン背後のスペースに圧力をかけられるのは基本的にボランチの選手になるため、ボランチの選手が前に出て圧力をかけられるかどうかがプレッシングの生命線である。

 日本代表のボランチが今回遠藤航と田中碧という、歴代でも最高クラスの守備範囲と守備のインテンシティを誇る2人だったことも大きな要因である。だが、それと同じくらいDFラインのラインコントロールがこまめに行われていたことも日本のプレッシングが機能した要因と言えるだろう。

最後の試合を終え、吉田に声をかける森保監督

②個のクオリティで勝負できるメンバーがそろっていた……

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Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。twitter: @ryo14afd